日本医療研究開発機構(AMED)

近年、日本の医療分野において研究開発の推進・環境整備の必要性が叫ばれている。日本の医療分野における研究開発はその先進性、生産的から世界に名を轟かせているが、しかし 2000年代初期からのヘルスケア・マーケットの急速な成長にも関わらず、2011年には医薬品・医療機器部門で約2兆円の赤字に直面、また研究成果の多くが市場化されず患者はその恩恵に預かることができないでいる。これらの事実により従来の政策に不足するものが明確になる。すなわち、研究成果や先端技術の実用化を支える枠組みが欠けている。残念なことに、これまで多くの研究やイノベーションが市場化されるまでの困難な過程の中で忘れ去られてしまっていた。


これらの問題に呼応し、基礎研究の円滑な実用化にむけた環境整備を行うため、独立行政法人日本医療研究開発機構(AMED)が設立された。2015年4月に正式に発足して以来、AMEDは2つの補完的な省庁間で橋渡し的な役割を期待されている。新しい技術の追求・実現によって、経済成長や市場拡大が見込まれている。事実、AMEDに関する法令(2014年第49条)は「健康・医療戦略推進法」とともに2014年5月に施行され、この法の下で現在の「医療政策」が生み出されてきたが、そこでは3つの基本原則が明記されている。

  • 先進技術の融合としての医療の供給
  • 経済成長への貢献
  • 先進技術を活用したグローバル・ヘルスへの貢献

さらに、2013年6月の安倍晋三首相の「経済活性化戦略」や2014年1月の「医療分野の研究開発に関する総合戦略(報告書)」の実施、2014年6月の健康・医療戦略推進本部の設立もこの中に盛り込まれている。これらを鑑みると、医療研究開発とヘルスケア産業は、日本国民の健康と経済成長的イニシアチブのどちらにとっても必要不可欠であると認識されていることがうかがえる。AMEDは適切に運営されれば、これらの目標達成に貢献するだろう。


AMEDは、実用化の可能性をもつ研究に焦点をあて、戦略的な開発研究の発展支援と研究—実用化の間の既存のプロセスを推進するために設立された。これらの目標を達成するため、AMEDは、

  • 従来は3つの省庁(厚生労働省、文部科学省、経済産業省)がそれぞれ独立に管理していた1400億円超の研究予算を集約化する。
  • 首相主導・全閣僚参画の内閣府 健康・医療戦略推進本部の管轄下に置かれる。健康・医療戦略推進本部は、AMEDを含め新しいヘルスケア産業や医療分野における先端研究開発推進の長期的戦略を俯瞰する。
  • 研究計画の見直し、潜在的な研究分野の発掘、研究成果を治験にかけるまでのプラニング、特許や商品化の支援といった医療分野の研究開発マネジメントを行う。
  • AMEDが推進する研究の治験や研究データを俯瞰する。これは、研究プロトコルの確立と研究成果のマネジメントも含む。
  • PMDA、産業界、学術機関、その他関係機関とのコラボレーションやパートナーシップを通じて実用化を支援する。2013年に政府が設立した創薬支援ネットワークは、AMEDに組み込まれ計画の柱の一つとなっている。
  • 研究開発基盤強化のための土台づくりを行う。AMEDのプロジェクトを通して、プロトコル数の、ガイダンス、部門間・省庁間でのコラボレーションを増加させ、研究開発基盤強化のシーズを植え付ける。
  • AMEDスタッフが選出した患者、医師、産業界代表からなるアドバイザリー ボードを持つ。本会議は、高齢化や感染症に重点を置き、革新的なプロジェクトの発案や企画をサポートする。


AMEDはアメリカ国立衛生研究所(NIH)の日本版と見なされてきたが、実際のAMEDの機能や役割は、保健医療における研究と発展をつなぐイギリスのシステムにより近いものである。


AMEDの主な活動

地球規模課題対応国際科学技術協力 プログラム(SATREPS)
感染症分野「開発途上国のニーズを踏まえた感染症対策研究」

本プログラムは、開発途上国のニーズを基に、地球規模課題を対象とし、将来的な社会実装の構想を有する国際共同研究を政府開発援助(ODA)と連携して推進するものである。特に、ポリオ、狂犬病などの人獣共通感染症に関する研究開発やHIV/エイズ、エボラ出血熱、マラリア、デング熱、結核等の新興・再興感染症の診断、予防、治療等に関する研究開発において、日本国内の大学や企業などの研究機関が、相手国の研究機関と連携しデータベースの構築、治療薬の探索に効率的に取り組む。2015年5月現在で、環境・エネルギー/生物資源/防災分野において、26カ国で44プロジェクトが実施されている。


再生医療実現拠点ネットワークプログラム iPS細胞研究中核拠点
「再生医療用iPS細胞ストックプロジェクト」

本プロジェクトは健康なボランティアからiPS細胞を作成し保存しておくことで、品質の良いiPS細胞を国内外の医療機関や研究機関に迅速に提供することを目標とする。AMEDは、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)に本事業を委託し、2015年8月に再生医療に使用可能なiPS細胞ストックを開始した。今後10年間で、日本人の大半に適用でき、さらに欧米でも使用可能な再生医療用iPS細胞ストックを構築し、臨床応用を目指す各機関に提供し、新規医療技術体系として確立する。


地域横断的な医療介護情報のICT化により、世界最先端の臨床研究基盤等の構築を加速するための研究事業  
本プログラムは、DPC・NDBデータを活用し、臨床研究のための評価を行う指標の整理を行うとともに、可能であれば、他のデータベースとの連携を行い、臨床研究のための評価を網羅的に実施するプラットフォーム開発を行うことを目的とする。このプラットフォームを用いることで、市販後の医薬品・医療機器を含めた医療技術の効果評価等を行い、医薬品・医療機器の再評価やアンメットメディカルニーズの同定等が可能となることが考えられる。


女性の健康の包括的支援実用化研究事業
本事業は、今まで主に疾病分野ごとに展開されてきた取組を女性の一生のステージごとの健康課題に対して、包括的・横断的な研究を支援することを目的に本年度から開始される新規事業である。女性特有の各健康課題の病態解明と予防および治療に資する横断的な研究支援、また、女性の健康施策に関する諸外国の動向について情報収集するとともに、我が国における女性の健康に関する実態把握を行い、女性の健康を総合的にサポートする医療、診療体制、および適切な施策への基盤を構築することを目指す。


創薬支援ネットワーク- DISC
創薬支援ネットワークは、日本医療研究開発機構に設置された創薬支援戦略部を中心に理化学研究所、医薬基盤・健康・栄養研究所、産業技術総合研究所等が強固な連携体制を構築し、大学や公的研究機関の優れた研究成果から革新的新薬の創出を目指した実用化研究を日本全体で支援する日本初の創薬支援制度である。産学協働スクリーニングコンソーシアム(DISC)は、会員企業から提供される化合物ライブラリーを用いて、創薬総合支援事業(創薬ブースター)でHTS(High-throughput Screening(迅速に創薬候補化合物を検索する技術))の実施が必要と判断された創薬シーズ(創薬標的)に対してスクリーニングを行い、その結果を会員企業にフィードバックする取組である。