女性の健康


現在、政府は女性の活躍推進を成長戦略のひとつとして掲げており、産業界も女性役員・管理職への登用に関する行動計画を策定し、数値目標を設定するなどの動きを活発化させています。このように社会全体で働く女性の活躍を推進する機運が高まっている一方、女性が働き続けるための健康面への社会の支援や、女性自身の健康知識は十分とは言えません。女性が、妊娠や出産・子育て、就労の継続等、ライフプランを主体的に選択するだけでなく、社会への貢献を実現するためにも、健康は重要な要素のひとつです。女性の健康増進施策を促進するための調査研究や、マルチステークホルダーによる議論の場が必要とされています。

背景・課題

海外の状況

妊産婦死亡率
  • 世界の妊産婦死亡数は年間30万人以上であり、1日あたり約800人が死亡している計算である。これには若年妊娠・出産(20歳未満の妊娠・出産)や家族計画の不足、医療環境と保健サービスの未発達や感染症対策の遅れなどの要因が挙げられる [1]。2000年の報告では、妊産婦死亡の95%がアフリカとアジアで起き、4%がラテンアメリカおよびカリブ海、残りの1%が高所得国で起きている。特にサハラ砂漠以南アフリカの国に住んでいる女性は16人に1人の割合で妊娠・出産により死亡する可能性があるということが示されている[2]。
ジェンダーに基づく暴力
  • ジェンダーに基づく暴力は、社会的性差に基づき相手の意思に反して害を与える行為全般を指し、世界では女性の3人に1人が身体的・性的暴力の被害者となっている。「女性にとって世界最悪の場所」と呼ばれるコンゴ民主共和国では1996年以降、女性の3人に2人が性暴力の被害に遭っていると言われている [3]。また、2014年にはイスラム国 (Islamic State)が7,000人以上の女性と子どもを捕らえ、強制結婚や性暴力、人身売買などの被害を受け現在も3,000人以上の安否が不明となっている [3]。
  • 暴力の被害者は、強制妊娠や予期せぬ妊娠、安全でない中絶、フィスチュラ(産科ろう孔)[i]やHIVを含む性感染症の発症等を引き起こす可能性が高いだけでなく、暴力の程度によっては死亡する場合もある [4]。
リプロダクティブヘルス[ii]
  • 2018年末時点で、世界のHIV陽性者数は3790万人、新規HIV感染者数は年間170万人、エイズによる死亡者数は年間77万人である [5]。サハラ砂漠以南のアフリカでは、15~24歳の女性の陽性者数は男性の2倍であると報告されている。さらに、15~19歳の思春期の若者たちに限定すると、新規感染者のうち5人に4人が女性である[5]。また、ルワンダやタンザニア、南アフリカ共和国などのアフリカ諸国では、親しいパートナーから身体的・性的暴力を受けたことのある女性のほうがHIVに感染しやすいという報告もある [6]。
  • 世界で1日あたり100万件以上の性感染症(STI: Sexually Transmitted Infection)が起きている [7,8]。中でも性器クラミジア感染症や淋病は、骨盤内炎症疾患や不妊症などの深刻な合併症を女性に引き起こすことがある [9]。
  • 世界で用いられている主な避妊方法は、女性不妊手術や子宮内避妊具(IUD: Intrauterine Device)に次いで、経口避妊薬が多い[10]。中でもヨーロッパ諸国では経口避妊薬を主な避妊法として服用している女性が多い [10,11]。各国の経口避妊薬の内服率については次の項目で示す。

国内の状況

子宮頚がん
  • 子宮頸がんは、一般には性交渉によるヒト・パピローマウイルス(HPV: Human Papillomavirus)の感染が原因となって形成される前がん病変(CIN: Cervical Intraepithelial Neoplasia)を経て発生する [12]。HPVワクチンは、原因となるHPVの感染を予防することで、子宮頸がんの発生を防ぐという仕組みのものである。その接種率は一時70%を超えていたが、2013年に複数の有害事象が報告されたことにより接種率が1%未満に落ち込んだ。子宮頸がんには日本で年間約1万人の女性が罹患し、約2900人が死亡しており、若年層の罹患率は中・低所得国と同程度である [13]。ワクチン接種を躊躇することで子宮頸がんによる死亡者数が今後増加していくと予想される。なお、2021年4月現在、日本ではHPVワクチンの定期接種の対象者を小学校6年生から高校1年生[iii]の女子を対象とし、公費による接種を実施している。また、厚生労働省がリーフレットを作成し、HPVワクチン接種の効果や接種スケジュール、HPVワクチンのリスクについて説明している[14]。
現代女性と経口避妊薬(低用量ピルを含む)の内服率
  • 2019年の国連人口部の統計では、日本の経口避妊薬(低用量ピルを含む)内服率は2.9%。欧米諸国でノルウェー25.6%、英国26.1%、フランス33.1%、カナダ28.5%、米国13.7%となっており、東アジアにおける経口避妊薬(低用量ピルを含む)内服率は、中国2.4%、香港6.2%、韓国3.3%となっている。また、東南アジアの経口避妊薬(低用量ピルを含む)内服率は、ミャンマー8.4%、ベトナム10.5%、タイ19.6%、マレーシア8.8%、カンボジア13.7%となっている [11,15]。これらの数字をみると日本の経口避妊薬(低用量ピルを含む)の内服率が欧米諸国だけではなくアジア諸国の中でもとても低いことがわかる。
  • 現代女性は昔の女性に比べて出産回数が減ったことにより生涯の月経の回数が増え、月経困難症や子宮内膜症の原因となっている [16]。
  • 日本では、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は、全体で 18.2%、 子どものいない夫婦では 28.2%です。これは、夫婦全体の 5.5 組に 1 組に当たる [17]。
性暴力・性犯罪
  • 内閣府の調査では、13人に1人の女性が「無理やり性交を受けた経験がある」と回答しており、つまり、400万人もの女性たちが被害に遭っているという実態が明らかになった。一方で、1年間に認知された被害例は1307件で、起訴された事例は492例と認知された件数の37%にしか満たない [18]。性暴力の被害者では20-50%の人が心的外傷後ストレス障害(PTSD: Post Traumatic Stress Disorder)を経験すると考えられている。また性暴力の被害者にはPTSDと合併してもしなくても、うつ病やパニック障害・社会恐怖などの精神疾患が多くみられる [19]。

特徴と課題

女性の健康に関わる問題は非常に多岐にわたる。生物学的に女性だけが抱える月経や妊娠・出産から生じる問題から始まり、それらの問題は個々が育った生活環境や属する社会背景によって深刻さや問題の種類、そして解決方法も異なる。女性の健康は、個人や社会制度の変革だけではなく、同時に問題に対する意識を根底から変えていく必要がある。

政策の動向

  • 1979:国連総会で政治的及び公的活動、並びに経済的及び社会活動的における差別の撤廃のための適当な措置をとることを求める女子差別撤廃条約が採択される
  • 1994: 国際人口開発会議/カイロ会議で人口問題に関するカイロ行動計画が採択される
  • 1995:世界女性会議で男女平等、開発、平和を目標に掲げ、女性のエンパワーメントに向けた課題を定めた北京宣言及び行動綱領が採択される
  • 2000:国連特別総会において「女性2000年会議」が開かれ、女性と健康・女性に対する暴力などの項目を含む1995年の行動綱領の中身を再確認する
  • 2015:ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals; MDGs)が定められ、2015年までに達成すべき8つの目標が掲げられる。目標3、5においてジェンダー平等推進と女性の地位向上、妊産婦の健康改善についての目標が設定される
  • 2030:持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals; SDGs)が定められ、2030年までに達成すべき17つの目標が掲げられる。目標3(すべての人に健康と福祉を)、5(ジェンダー平等を実現しよう)においてMDGsから引き続き妊産婦の健康改善とジェンダー平等推進を進めるための目標が設定される
  • 1947:労働基準法において賃金についての女性差別をしてはいけないと定められる
  • 1985:男女雇用機会均等法において雇用における男女の均等な機会と待遇の確保を図るとともに、女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康の確保を図るための措置推進を目指す
  • 1997:男女雇用機会均等法改正に伴う関連法として、労働基準法の一部が改正され女性の残業・深夜労働・休日労働を制限した女性保護規定が撤廃される
  • 1999:男女共同参画社会基本法が定められ、男女の人権の尊重、社会における制度または慣行についての配慮、政策等の立案及び決定への共同参画、家庭生活における活動と他の活動の両立、国際的協調の5本柱を基に男性も女性も意欲に応じてあらゆる分野で活躍できる社会の実現を目指す
  • 2016:女性活躍推進法において働きたい女性が活躍できる労働環境の整備を企業に義務付ける

女性の健康対策の必要性


女性に関するヘルスリテラシーと女性の健康行動や労働生産性、必要な医療へのアクセスとの関連性

女性の健康と活躍推進に関連した各国の動向

女性の健康増進が社会にもたらす社会経済的側面の影響

女性の健康教育の必要性

各都道府県が、小・中・高といった教育機関を対象として実施している性教育事業の好事例集

女性の健康促進に向けた各ステークホルダーの貢献


HGPIの関わり

HGPIの取り組む重点分野・ミッション

  • 社会全体で女性活躍の推進に向けた様々な取り組みがなされる一方で、女性自身の健康知識や健康増進に対する社会の支援は十分とは言えないという課題をもとに、女性のライフステージに合わせた健康増進支援の充実や必要に応じて女性を相談・医療機関へ繋ぐ仕組み作りを目指す。
  • 女性の健康に関わる実態やニーズの調査研究の実施、政策への働きかけ、マルチステークホルダーとの連携を通じて、若者に向けた健康教育の実践や働く女性のヘルスリテラシーの向上などに取り組んでいる。

HGPIの活動実績

  • 2018年 「働く女性の健康増進調査 2018」を公表。就労女性2,000名を対象に女性に関するヘルスリテラシーと女性の健康行動や労働生産性、必要な医療へのアクセスとの関連性について調査を行った。
  • 2019年 「大学生の包括的健康教育プログラム構築と効果測定調査」を公表。国際セクシュアリティ教育ガイダンスを参考にし、専門家の意見を収集したうえで大学生向けの包括的健康教育のプログラムを構築した。都内3大学を対象に本プログラムを用いた介入調査を行い介入前後の効果を測定した。
  • 上記の調査報告によって以下の3点において変革がみられた
    • 経済産業省の「健康経営銘柄」の選定要件に「女性の健康保持・増進に向けた取り組み」が追加され、2018年度健康経営度調査(健康経営銘柄2019の選定)より実施された。
    • 2020年度診療報酬改定にて、器質性月経困難症を有する患者に対して、継続的で質の高い医療を提供するため、婦人科医又は産婦人科医が行う定期的な医学管理に対し、「婦人科特定疾患治療管理料」が設置された。
    • 調査結果が国会の予算委員会、議員勉強会、学会等で引用されたり、様々なメディアで取り上げられたことにより、女性の健康増進やヘルスリテラシー向上に向けた取り組みの必要性が当事者のみならず、広く社会に認知された。
  • 2020年: 包括的健康教育について質の良い授業を行うことができる助産師の講師を各都道府県に養成するためのワークショップを開催
  • 2020年:企業の従業員に向けたヘルスリテラシーに関するeラーニングを用いた介入調査の実施

HGPIの今後の活動

  • 全ての10代、20代の若者たちがリプロダクティブヘルスに関する教育や相談の機会を得られる社会の実現に向けたプラットフォームの構築
    • 全国の大学等の高等教育機関における包括的健康教育の実施
    • 若者たちが集まり、相談できる対面・オンラインユースカフェの設置
    • 若者たちを対象とした定量・定性調査の実施、政策提言書の公表
  • 妊娠を望む人が自らの望むタイミングで妊娠することができる社会の構築に向け、現代日本における子どもをもつことに関する実態調査の実施、政策提言書の公表
  • 企業の従業員のヘルスリテラシー向上を目的とした介入調査の実施、政策提言書の公表

脚注・参考文献

脚注

[i] 出産時に起こる合併症。膣とその周辺の膀胱や直腸にろう孔(穴)ができる症状。尿や便が垂れ流しになり、差別の原因にもなる。

[ii] 人々が安全で満ち足りた性生活を営むことができ、生殖能力をもち、子どもを産むか産まないか、いつ産むか、何人産むかを決める自由をもつこと

[iii] 12歳となる日の属する年度の初日から16歳となる日の属する年度の末尾までの間

参考文献

[1] アピステコラム. 世界の妊産婦・子どもを取り巻く環境と家族計画~SDGsすべての人を健康に~https://www.apiste.co.jp/column/detail/id=4593 (アクセス日:2021年1月12日).

[2] UNFPA. 途上国の不均衡に高い妊産婦死亡率~アフリカの女性は、世界の先進国地域の女性に比べて175倍出産時に死亡する可能性がある~. https://bit.ly/2PYDWtb. (アクセス日:2021年3月15日).

[3] UNICEF. ジェンダーに基づく暴力 女性3人1に人が身体的暴力の被害 必要なのは鍵、光、安全な住居. https://www.unicef.or.jp/news/2018/0215.html. (アクセス日:2021年1月12日).

[4] UNFPA. ジェンダーに基づく暴力. https://bit.ly/3eyxfbI. (アクセス日:2021年3月15日).

[5] UNAIDS. ファクトシート-グローバル エイズ アップデート.

https://api-net.jfap.or.jp/status/world/pdf/factsheet2019.pdf (アクセス日:2021年1月12日).

[6] API-Net エイズ予防情報ネット. 女性とAIDS(エイズ). 2004. https://api-net.jfap.or.jp/status/world/data/2004/02.pdf. (アクセス日:2021年3月30日).

[7] Rowley J, Vander Hoorn S, Korenromp E, Low N, Unemo M, Abu-Raddad LJ, et al. Global estimates of the prevalence and Incidence of four curable sexually transmitted infections in 2012 based on systematic review and global reporting. Plos one. 2015.

[8] World health organization. Report on global sexually transmitted infection surveillance 2018. Geneva: World Health Organization; 2018. https://www.who.int/reproductivehealth/publications/stis-surveillance-2018/en/.

[9] 予防会. 性病に毎日100万人が感染「感染率下がってない」WHO. https://yoboukai.co.jp/article/445. (アクセス日:2021年1月12日).

[10] 医療法人Green Wake 中野司朗レディースクリニック. 世界の避妊法の比較. https://www.clinica.jp/?post_type=keyword&p=318. (アクセス日:2021年3月15日).

[11] United Nations Population Division. World Contraceptive Use. https://www.un.org/development/desa/pd/data/world-contraceptive-use. (アクセス日:2021年3月15日).

[12] 公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会. HPVワクチンについて. https://jsgo.or.jp/public/hpv_vaccine.html.(アクセス日:2021年3月15日).

[15] United Nations. Contraceptive Use by Method 2019https://www.un.org/development/desa/pd/sites/www.un.org.development.desa.pd/files/files/documents/2020/Jan/un_2019_contraceptiveusebymethod_databooklet.pdf. (アクセス日:2021年3月15日).

[16] Bayer. 現代女性と月経. https://gynecology.bayer.jp/static/pdf/FLX170714.pdf. (アクセス日:2021年1月12日).

[17] 国立社会保障・人口問題研究所. 「2015 年社会保障・人口問題基本調査」.

[18] Human Rights Now. 性暴力被害者を守れるより良い制度の実現を目指して. https://hrn.or.jp/activities/project/women/womensrights-2020/. (アクセス日:2021年1月12日).

[19] e-ヘルスネット. 犯罪被害者のメンタルヘルスと支援. https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-06-005.html. (アクセス日:2021年1月12日).


最終更新日:2018年6月