NCDs対策においては、喫煙やアルコール、不健康な食事、運動不足、アルコールの有害な使用等のリスク要因を減らす予防・健康増進に向けた取組及び必須医薬品や治療アクセスの確保が必要となる。日本では、予防・健康増進に向けた取組として国民健康づくり対策の取組、また治療アクセス確保に向けた取組として、国民皆保険制度の整備が進められてきた。さらに近年は「がん対策基本法」「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」が成立し、がんや循環器病といった個別疾患領域について、総合的な対策が推進されている。以下に概要を記載する。
国民健康づくり対策の取組
NCDsの予防対策には、健康を増進し発病を予防する「一次予防」、病気を早期に発見し早期に治療する「二次予防」、病気にかかった後の対応として治療・機能回復・機能維持を行う「三次予防」がある。
こうした考え方のもと、日本では、国民健康づくり対策として10年ごとに取り組みがなされている。
- 1978年:第1次国民健康づくり対策の推進
- ①生涯を通じる健康づくりの推進、②健康づくりの基盤整備、③健康づくりの普及啓発の3つの基本施策として、10か年計画が策定された。
- 1988年:第2次国民健康づくり対策の推進
- 従来「治療」のみに力点が置かれていた保健医療分野において、一次予防と二次予防を重視し、健康診断の実施による疾病の早期発見・早期治療及び市町村保健センター等の基盤整備等の環境整備が進められた。
- 乳児・新生児死亡率の低下、栄養状態の改善等により、日本の平均寿命は伸び続け、1980年代には女性の平均寿命が80歳を超えた。こうした背景の中、第2次国民健康づくり対策は80歳になっても身の回りのことができ、社会参加もできるようにするという趣旨で、アクティブ80ヘルスプランと称されている。
- 1996年:「成人病」から「生活習慣病」へ
- 当時の厚生省がそれまで行政用語として使われていた「成人病」を「生活習慣病」と呼称することを提唱。以降、NCDsに含まれるがん、糖尿病などの疾患は生活習慣病と表記されている。
- 2000年:第3次国民健康づくり対策(~21世紀における国民健康づくり運動~(健康日本21))の推進
- 一次予防を重視し、9分野(①栄養・食生活、②身体活動・運動、③休養・こころの健康づくり、 ④たばこ、⑤アルコール、⑥歯の健康、⑦糖尿病、⑧循環器病、⑨がん)で数値目標を設定し、対策が講じられた。
- 2003年:健康増進法の施行
- 健康増進法の施行により、国民の健康づくりを推進する法的基盤が整備された。また健康増進法に基づき、「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な指針」が示された。
- 2008年:特定健康診査・特定保健指導の導入
- 「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づき、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に着目した特定健康診査・特定保健指導が導入された。
- 2012年:「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な指針」の全部を改正
- 第4次国民健康づくり対策として、健康日本21(第二次)を2013年度から2022年度まで推進することが示された。
- 当該指針において、健康寿命の延伸に加え健康格差の縮小の実現を目指すこと、また初めて「NCDの予防」が明記された。
- 2018年:健康増進法の一部改正
- 望まない受動喫煙の防止を図るため、多数の者が利用する施設等における喫煙の禁止等が定められた。
がん対策
日本において、がんは1981年から死因の第1位であり、2015年には年間約37万人が亡くなっていることから、国民の健康にとって重要な問題となっている。こうした状況も鑑み、2006年6月にはがん対策の一層の充実を図ることを目的にがん対策基本法が成立し、2007年4月に施行された。また同年6月には、がん対策の総合的かつ計画的な推進を図るため、第1期のがん対策推進基本計画が策定された。
このようにがん対策として様々な取組みが行われたが、2007年度からの10年間の目標であった「がんの年齢調整死亡率(75歳未満)の20%減少」については、達成することができなかった。今後は、こうした状況も踏まえ、予防のための対策をさらに充実させていくことが必要である。がんにかかった場合は、早期発見・早期治療につなげられるように検診の受診率を向上させることも重要である。
第3期がん対策推進基本計画(2017~2022年度)は、全体目標を「がん患者を含めた国民が、がんを知り、がんの克服を目指す」とし、分野別の施策は以下の通りである。
- がん予防
(1)がんの1次予防、(2)がんの早期発見、がん検診(2次予防)
- がん医療の充実
(1)がんゲノム医療、(2)がんの手術療法、放射線療法、薬物療法、免疫療法、(3)チーム医療、(4)がんのリハビリテーション、(5)支持療法、(6)希少がん、難治性がん(それぞれのがんの特性に応じた対策)、(7)小児がん、AYA(Adolescent and Young Adult:思春期と若年成人)世代のがん、高齢者のがん、(8)病理診断、(9)がん登録、(10)医薬品・医療機器の早期開発・承認等に向けた取組み
- がんと共生
(1)がんと診断された時からの緩和ケア、(2)相談支援、情報提供、(3)社会連携に基づくがん対策・がん患者支援、(4)がん患者等の就労を含めた社会的な問題、(5)ライフステージに応じたがん対策
上記1~3を支える基盤として、がん研究や人材育成、がん教育、普及啓発の体制の整備が掲げられている。
また、がん対策を総合的かつ計画的に推進するための必要事項としては、関係者等の連携協力の更なる強化、都道府県による計画の策定、がん患者を含めた国民の努力、患者団体等との協力、必要な財政措置の実施と予算の効率化・重点化、目標達成状況の把握、基本計画の見直しが項目としてあげられている。
(上記「がん対策」は本JHPN内「日本の医療政策4.4地域における医療提供体制の整備等」より引用)
循環器病対策
脳卒中、心臓病その他の循環器病(以下、循環器病)は、NCDsの主要疾患であり、虚血性脳卒中(脳梗塞)、出血性脳卒中(脳内出血、くも膜下出血など)、一過性脳虚血発作、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)、心不全、不整脈、弁膜症(大動脈弁狭窄さく症、僧帽弁逆流症など)、大動脈疾患(大動脈解離、大動脈瘤など)、末梢血管疾患、肺血栓塞栓症、肺高血圧症、心筋症、先天性心・脳血管疾患、遺伝性疾患等、多くの疾患が含まれる。2018年における心疾患による死亡はがんに次いで2番目に多く、脳血管疾患も死因の第4位となっており、両者を合わせて年間31万人以上が亡くなっている。
こうした状況を鑑み、「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」が2018年に成立し、2019年に施行された。また翌年2020年10月には、基本法に基づき、「循環器病対策推進基本計画(2020~2022年度)」が策定された。循環器病は、生活習慣や肥満等により発症、進行する疾患が多いが、先天性疾患、遺伝性疾患等、様々な病態が存在する。また発症から数分から数時間の単位で生命に関わる重大な事態に陥ることも多く、発症後早急に適切な治療が行われることが必要となる。回復期及び慢性期には、急性期に生じた障害が後遺症として残る可能性があるとともに、症状の重篤化や急激な悪化が複数回生じる危険性を常に抱えているなど再発や増悪を来しやすいといった特徴がある。これらの特徴を踏まえ、循環器病への対策は予防から医療及び福祉に係るサービスまで幅広い対策が求められる[5]。
循環器病対策推進基本計画は、全体目標を「2040年までに3年以上の健康寿命の延伸及び循環器病の年齢調整死亡率の減少を目指す」とし、分野別の政策は以下の通りである。
- 循環器病の予防や正しい知識の普及啓発
循環器病の発症予防及び重症化予防、子どもの頃からの国民への循環器病に関する知識(予防や発症早期の対応等)の普及啓発
- 保健、医療及び福祉に係るサービスの提供体制の充実
(1)循環器病を予防する健診の普及や取組の推進、(2)救急搬送体制の整備、(3)救急医療の確保をはじめとした循環器病に係る医療提供体制の構築、(4)社会連携に基づく循環器病対策・循環器病患者支援、(5)リハビリテーション等の取組、(6)循環器病に関する適切な情報提供・相談支援、(7)循環器病の緩和ケア、(8)循環器病の後遺症を有する者に対する支援、(9)治療と仕事の両立支援・就労支援、(10)小児期・若年期から配慮が必要な循環器病への対策
- 循環器病の研究推進
循環器病の病態解明や予防、診断、治療、リハビリテーション等に関する方法に資する研究開発
上記1~3を支える基盤として、循環器病の診療情報の収集・提供体制の整備が掲げられている。
また、循環器病対策を総合的かつ計画的に推進するための必要事項としては、関係者等の連携協力の更なる強化、都道府県による計画の策定、必要な財政措置の実施と予算の効率化・重点化、新型コロナウイルス感染症を踏まえた対策、基本計画の見直しが項目としてあげられている。