2.2政策の決定プロセス

日本の医療政策の大部分は医療費の変化を考慮し随時改正が加えられるものの、基本的には立法の手続きを経た法案が政府の予算を含む政策プロセスの全体を形作っている。日本の会計年度は毎年4月から3月までであり、法案は予算案とともに翌年4月から始まる新年度に向けて提出の予定が組まれることとなる。医療政策に関わる法案及びその他の法案は内閣または国会議員により国会へ提出される[4]。


内閣における審議

内閣により提出される法案は内閣提出法律案と呼ばれ、緊急の場合を除き、長期にわたる原案作成と審査の手続きを経て国会に提出される。その流れは以下に示す通りである[5],[6]。

 

問題の定義及び情報収集

はじめに、内閣がステークホルダーの利害関係やメディアによる報道内容について調査を行う。医療関係者、ステークホルダー及び外部の有識者を含めた会議を通して情報収集及び意見収集を行う。

 

審議会による検討[7]

政府には宇宙政策から自殺防止対策に至るまで幅広い分野に関する委員会が存在し、社会保障審議会や医療保険部会など常設の委員会の他に、専門性の高い議題や様々な角度からの見解を必要とする場合は臨時の特別委員会を設置、開催する。

 

内閣法制局における審査

内閣が提出する法律案については、閣議に付される前に全て内閣法制局における審査が行われる。内閣法制局における審査は、事務的には主管省庁がとりまとめた法律案の原案について予備審査の形で進められている[8]。

 

与党による法案審査

自民党政務調査会などによる与党審査が行われる。与党との調整が取れない場合、法案はこの時点で廃案となる。与党の審査を経て事務次官会議等により了承された法案は閣議へと回される。

 

国会提出のための閣議決定

閣議では法案の緊急度及び現行の法律との整合性の検討を行う。閣議によって法案の提出が決定した場合、2月から3月頃に総理大臣が内閣を代表して法案を国会に提出する。


国会における審議

内閣提出法案以外の法案は衆議院議員または参議院議員により国会に提出される。 議員による法案の発議(議員立法)に際しては、提案者の他に一定数の賛成者による署名が必要となる。法案は提出者が衆議院議員の場合は衆議院議長へ、参議院議員の場合は参議院議長へと提出される。 法案が国会へ提出された後は、衆参両院にて審議が行われる。審議は通常、常任委員会における審議、議員立法の提出者または総理大臣の質疑応答、公聴会及び委員会での採決などを経たのち、本会議で以下のいずれかを経由して可決される。

 

・衆参両院で過半数の賛成を得て可決された場合

・衆参で議決が異なり、両院協議会が開かれた後に成案が衆参それぞれの本会議で可決された場合

・衆議院可決後に参議院で否決された法案が衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再可決された場合[9]。(これを衆議院の優越と呼ぶ。衆議院議員の任期が短いことと解散があることから、衆議院がより民意に近いと考えられているためである。)

 

可決された法案は内閣を経由して奏上され、その後30日以内に法律として公布されなければならない。


診療報酬改定

上記のプロセスに加え、2年に一度実施される診療報酬改定も医療政策を形成する重要な手続きである。診療報酬制度についての詳細はSection7.2の診療報酬制度を参照。




参考文献

[4] 内閣法制局「法律ができるまで」http://www.clb.go.jp/law/index.html(アクセス日2018年1月30日)

[5] 内閣法制局「法律ができるまで」http://www.clb.go.jp/law/index.html(アクセス日2018年1月30日)

[6] 岩淵豊 (2013)「日本の医療政策 成り立ちと仕組みを学ぶ」中央法規出版. p.32-41

[7] 内閣府「審議会・懇談会等」http://www.cao.go.jp/council.html(アクセス日2018年1月30日)

[8] 内閣法制局「法律の原案作成から法律の公布まで」http://www.clb.go.jp/law/process.html(アクセス日2018年4月20日)

[9] 衆議院「国会の権限」http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/kokkai/kokkai_kengen2.htm (アクセス日2018年2月1日)