【2018年版】9. 特別編:インタビュー これらかの医療政策を考える

JHPNのリニューアルにあたり、「日本の医療政策」のコンテンツを一層充実させるべく、日本の保健医療システムに関わる様々な立場の第一人者にインタビューを実施し、日本の保健医療政策のあるべき姿や現行制度の課題、将来の展望についてご意見を伺った。

インタビューの中で指摘された共通の課題として、急速な高齢化に伴う疾病構造の変化や、それに対応するリソースが限られていることが挙げられた。また、その解決には、産官学のさらなる連携を推進することが鍵であることがうかがえる。

世界に先駆けて、これまで他国も経験したことのない少子高齢化社会を迎える日本が、この「高齢化」という非常に大きく、複雑な課題に対しどのような解決策をもって対応してくのかは、世界からも注目されている。


インタビュー1(黒川 清氏 政策研究大学院教授/日本医療政策機構代表理事)

日本の保健医療政策の課題

  • 国民皆保険制度が達成された当初は、その時代において評価できる仕組みであったかもしれないが、その後、時代の変化にあわせて見直しがうまく行われていないことが課題である
  • 日本の保健医療制度が直面している課題は、受診する医療機関(病院・診療所など)を自由に選べる「フリーアクセス」、医療の質の評価、医療費の負担方法によるものが大きい。最も大きな課題は、フリーアクセスであると考えている。例えば人口100万人当たりのCTの設置台数は、諸外国と比較して約3倍以上多くなっている。これは、フリーアクセスの弊害の一例であるが、こうしたことについてどう対処していくべきなのか、十分には対応できていない

 

課題解決に向けて、必要な対策

  • 日本は高齢化が進み、慢性疾患中心の疾病構造であることから、重症化予防のためにも日頃から自らの体調や健康について相談できる、かかりつけ医が必要である
  • 医師不足と言われてはいるが、日本全体でみれば医師は足りており、病院を作りすぎたことで医師不足に陥っているのが現状である。今後人口が減少すること等も踏まえ、かかりつけ医の制度を確立し、医師を適切に配置し、CT等の医療機器も共同利用できるように地域中核病院をオープンシステム(開放型)病院にすべきである
  • 限られた医療資源を効果的に活用するためにも、高度医療をどの病院でも提供するのではなく、大学病院は外来をせず高度医療に専念するというような医療機関間のオープンな機能分化を図るという発想が必要である

 

今後の日本の保健医療制度が目指すべき姿

  • 中長期的なビジョンを描くための調整役は、役所の役割かもしれないが、ビジョンに基づいて具体的にどう実現していくかを、患者も含めたマルチステークホルダーで議論し、日本の保健医療制度を中長期的な視野で考えていくことが重要である
  • 例えば、「保健医療2035」のように目指すビジョンは既にあるのだから、大事なのは、どのようなやり方でこの目標を実現していくかである。また、20年後のビジョンを議論する際には、20年後も当事者であり続ける人が主体となること、などの責任ある対応が大事である
  • 目指すべき姿は、役所だけでなく国民や住民ともコミュニケーションを図りながら実現していくことが重要である
  • 今後は、地方自治体、特に市町村の役割が一層大きくなると期待している。市町村が持っている市町村国保データ等を見える化し活用することが重要である
  • 市町村という点では、住み慣れた地域で住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供される「地域包括ケアシステム」は今後の日本の保健医療制度を考える上で重要なポイントと考えている

 

日本が他国の保健医療政策に貢献できること

  • 日本政府は新しいことを始めることはできても、既存の制度をやめるメカニズムがない。だから失敗から学ばない。この点について他国は日本の失敗から学んでほしい


インタビュー2(匿名 グローバルIT企業の幹部)

日本の保健医療政策の課題

  • 日本の医療保険制度における最も大きな問題は、コストがかかり過ぎていることである。また、政府および社会が十分に準備できないほど、人口の高齢化がこのコストにおける問題をより深刻化させている
  • この問題を解決するためには、患者が大病院へ治療を受けに行く従来の医療提供体制を変え、例えば、現在政府が推奨している地域包括ケアモデルへの転換が必要である
  • だが、日本は既に時間を使い果たしてしまっている。問題解決において、スピードが欠けていることが日本の大きな課題である。高齢化やコスト構造の問題は以前から取り組むべき問題であったが、行政を含め、多くの関係団体や組織がタイムリーに取り組むことができていない

 

課題解決に向けて産業界が貢献できること

  • 日本の医療保険制度が直面している問題を解決するには、患者がどのように医療サービスを受け、どのように健康をサポートする資材を受けるのか等の仕組みを変えなければならない。産業界は医療保険制度が抱えている課題に対して大きく注目しており、医療分野に関与する主要な原動力となっている
  • 医療が抱える課題すべてに対して解決策があるわけではないが、異業種を含む産業界は既に保有している知見、アセット(強み)やサービスを活用し、医療システムに必要な変化に対して貢献することができる
  • また、特にハイテク産業等の異業種は、イノベーションに対する新しい視点を活用し、早期の問題解決に貢献できると考える
  • ハイテク産業においては、「ベロシティ(速さ)」が重要であり、我々はイノベーションにおいて、すぐに完璧なものを作るのではなく、開発に対して試験的かつアジャイル(機敏)なアプローチをとっている。医療においては慎重になる必要はあるが、それは理念とし、ソリューションは早期に開発し、それを継続的に改善することが重要だと考えている

 

医療政策の変革における協働

  • 高齢化や医療保険制度におけるコスト構造の課題は広く知られているが、何かを変えようとする際には、同じような考えや危機感をもったステークホルダーを集め、ステークホルダー間で同じビジョンを共有し、協働する必要がある
  • 特に産業界は医療分野における異業種として、協働するには従来の医療関係者との協働の仕方や懸念点を学び、理解する必要がある
  • 更に、医療が抱える問題に対するソリューションを開発するにあたって、顧客(患者や医師)の目線に立つ必要がある。企業のためではなく、顧客のためでなければならない。そうすることによって、はじめて患者や医師の信頼を得ることができ、変革を実現できると考えている

 

日本が他国の保健医療政策に貢献できること

  • 日本が高齢化に対してどのような解決策を見出し、対策をとっていくのかは他国も注目をしており、今後どのように高齢化に対応していくのかという点で、他国に貢献できることがあるのではないか


インタビュー3(原 聖吾氏 株式会社情報医療CEO)

日本の保健医療政策の課題

  • 日本の保健医療制度の課題は現在3つある。1つは、税収や経済成長率が伸び悩む中、社会保障費に割けるリソースが限られてきていること。2つ目は少子高齢化により、日本の保健医療制度を支える現役世代が減ってきていること。3つ目は疾病構造の変化である

 

課題解決に向けて、必要な対策

  • 質の高い医療に限られたリソースを適切に使っていくことが重要である。そのためには、何が医療の質なのかという土台を作ることが重要である。その上で医療データが整備されていく必要がある
  • 社会保障費が増えていく中で、医療データを整備し、もう少し研ぎ澄ませた形でリソースを配分していく必要がある

 

データ活用に関する課題

―データの収集・蓄積―

  • 医療データの中には、情報として十分に蓄積がされていないものがあることが課題である。例えば、受診時の医師と患者の対話などである。一部データ化されていたとしても、分析できる状態になっていない。こうした状況下で実施されるデータ分析は、患者や国民に結果を還元できていない。データ分析、介入、活用というところで課題が多くあると思っている

―データの活用―

  • 今あるデータセットの活用方法や方針、個人情報の問題や知的財産権の取り扱いを明確にした上で、データの扱い方をもう少しクリアにする必要がある
  • データの分析はできるが、実際に医療現場に還元していくことや、分析されたものをどう国民1人ひとりへ還元していくかはまだ十分に検討できていない。従業員を対象としたデータヘルスの取り組みは一部では行われているが、もう少し受益者全体に広がっていくような取り組みが必要である
  • データを活用する際にはデータありきではなく、ユーザーにとってのメリットが何かを考え、信頼されるサービス、プロダクトをもっていることがより重要である。こうした点では、民間企業の知恵やユーザーの視点を取り込むのも1つの方法であり、政策的視点では、民間企業の取り組みをもう少し後押しする仕組みや、民間企業と連携しながら基盤を作っていくという発想があってもよいのではないか
  • 事業者からすると、先の事業展開は描きづらいことも課題である。しかし、日本には諸外国と比較して、CTやMRIは人口あたりの設置台数が多く、その分大量に画像データがあり、レセプトデータも同じフォーマットで蓄積されていることから、これらのデータは、世界の中で競争優位性の源泉になる可能性がある

―オンライン診療―

  • この1〜2年でオンライン診療制度の整備が進んでいるのは、良い流れであると感じている。オンライン診療はデータ化されていない情報をデータ化していくという取り組みだと捉えている。オンライン診療によって、より患者に近い場で、患者と医師のコミュニケーションのデータが作られていくことになると考えている
  • オンライン診療が進むことで、これまでデータ化されてこなかった部分のデータを活用していくことも可能である。ただ、1人ひとりのデータが自分自身のものとして蓄積され、世界に広がっていくまでにはまだ取り組むべきことはたくさんある。また、医師が電子カルテに書き込む情報は医師というフィルターを通しての情報であり、本来の医師と患者間のコミュニケーションの情報の大部分は失われていることから、患者が本当に訴えたかったことがどこまで反映されているのかは分からないことには注意しなければならない

 

今後の日本の保健医療制度が目指すべき姿

  • 日本の保健医療制度は良い制度だと思っている。平均寿命の長さや乳幼児死亡率の低さは世界でもトップクラスであり、これはフリーアクセスやセーフティネットが整備されているからであると考える。医療機関を受診した際の自己負担は定率負担であり、経済格差によらず医療サービスを受けることができるという点や、高額療養費制度も整備されておりこうした点は今後も守っていくべきである
  • 今後は、より価値の高い医療に適切にリソースが使われる世界になるとよいと考えている。その中で、ペイヤー(保険者)がより大きな役割を果たしていくと思っている。オランダのような、患者がペイヤーを選択し、ペイヤーがプロバイダー(医療提供者)を選択し、政府がリスク調整するという管理競争モデルは良いと思う

 

保険者への期待

  • 保険者が持っているレセプトデータ、健診データ等をもとにプロバイダー、政策決定者に対して、質の高い医療への資源配分という視点で重要な示唆ができるかどうかが問われると考える
  • 日本では年齢や職業等によって生涯を通じて同一の保険者に加入し続けるわけではないが、データに一貫性を持たせる必要がある。生涯の健康寿命を最適化するために地域保険、職域保険といった保険者の区分の仕方について改良することも検討するべきであろう

 

日本が他国の保健医療政策に貢献できること

  • 少子高齢化、社会保障費に割けるリソースの限界、疾病構造の変化はいずれも他の国も今後、通る道ではあるので、人がより健康寿命を長くして幸せに生きられる社会をつくっていくというのは他の国にとってモデルになり得る
  • NCD(National Clinical Database)は、世界でも類をみない症例数と、外科手術のアウトカムが含まれているデータベースで、価値が高いものだと思う。レセプトデータもデータ量、データ構造において、ある程度整備されているので、こうしたデータを日本の競争力という視点で使っていくという捉え方が必要である


インタビュー4(大西 昭郎氏 東京大学公共政策大学院客員教授)

日本の保健医療政策の課題

  • 高齢化、コスト、人材不足も重要な課題ではあるが、これらの課題があることについてはすでに知られている。ただ、それらの課題の根底にある大きな問題に対して解決の道筋をつけていくことが重要だと思う
  • 一例として、少子高齢化の課題を見るとき、今のところリソースの多くが高齢者の課題に対して投入されている傾向にあるように思う。少子化は保育園の待機児童問題等がよく取り上げられるが、少子化関連の課題に対して投入するリソースについて、高齢化の課題向けのものとのバランスを見ることも大事だろう

 

課題解決に向けて、必要な対策

  • 医療サービスの提供という視点からは、コメディカルも含めたサービス提供者の側がサービスの質を大きく左右するものなので、提供されるサービスの質をモニターしながら、より質の高いサービスの提供に対してインセンティブが働くようにしていくことが重要だと思う
  • サービスの質をどのようにモニターしながら評価し、それを向上させていくインセンティブの体系を組み立てていくのかについては、より議論を深めていくことも必要だろう。各国でそうした検討が試みられているが、国内ではこうした議論を推進する場やリーダーシップ作りが望まれる

 

医療の質の評価方法について

  • 各国で取り組まれている医療改革では“Quality of Care”という観点での評価を行おうとしている例が少なくない。入院期間や治療に伴う患者や医療者の負担、再入院率や予後の管理指標などもモニターし、評価指標となっていることもある。医療機器の場合には、使用する医療者の技術も効果を発揮させるには重要な要素となる。これらをどのように評価していくか考えるうえで、Quality of Care の指標の一部に反映できるかもしれない。今後の検討を期待したい
  • 近年、国内では医療技術評価(HTA: Health Technology Assessment)が注目を集めているが、この概念は必ずしも医療やケアの質を評価することと同じではない。薬剤の費用対効果を計測し、医療資源を配分に役立てるべく有効に利用するには有用な手法であるが、医療機器の例で示したように医療技術や、医療機器または医療材料に当てはめるうえでは、それぞれの特性の違いに配慮する必要もあるだろう

 

今後の日本の医療保険制度が目指すべき姿

  • 日本の医療保険制度は、きめ細かくマネジメントすべく組み立てられた、見事なシステムであると思う。また、医師、コメディカルの技術水準やモチベーションの高さは高く評価できると思う。皆保険制度については、なくすのか維持するのかという観点だけではなく、より良いものにするには何が必要なのかを議論するということが重要だろう
  • 医療機関が持っているサービスの仕組みをどうやって複数の医療機関の間で、また、地域の医療機関に広く展開していくかは、大きなテーマだと思う。在宅診療や遠隔診療は、地域連携の視点からも行われているが、より効率よく、かつ成果が上がるようにするためには、一層きめ細かく課題解決を進めていく必要もあるだろう。特に医療経営、病院経営のあり方についても検討は必要だと思う
  • さらに地域連携を進めるためには経済的インセンティブを推進する仕組みも検討に値するのではないか。また、そうした仕組みにおいて、対象となる地域に関してサービス提供と評価の対象となる地域をどのようにとらえるのかも大きなテーマだろう

 

今後の日本の介護保険制度が目指すべき姿

  • 介護保険制度では、地域ごとに利用者の認定を行い、サービスを提供することになっている。このため、地域によって認定の水準に違いがあるケースや、提供されるサービスにも特徴や差が生じる場合もある
  • 地域を超えて介護サービスの利用者が移動する場合には、認定を受けてから施設やサービスの利用ができるまでに時間がかかる場合や、提供に関わる費用負担が変わってしまうこともあるため、自治体をまたいでの介護サービスの利用は簡単にできるとは言いにくい状況にある
  • 一時的な移動や滞在先の変更、または複数の滞在先がある場合など、地域や個人を取り巻く事情が多様に変化していくと考えられる中、こうした場合であっても介護サービスが円滑に利用できるよう、利用者の視点に立って自由度が高い仕組みを検討してもよいのではないか

 

日本の医療と介護の連携の課題

  • 日本国内であればどこにいても自らが希望する医療機関を受診できるのに対して、介護については居住する地域や場所によってサービスが異なるという点を挙げたが、もう一つの課題は患者や家族の意識の変化だと思う
  • 高齢者層が増え、人生100年という意識が国民に浸透するにつれ、個々人がどのようにそれぞれのライフステージを過ごしていくかを考えることが今後は増えていくだろう。そうした意識があることで医療サービスや介護サービスの姿も少し変わっていくかもしれない。この変化の機会をとらえて、医療や介護サービスの望ましいあり方について広く、多くの提案を求め、議論が行われるようにすることができないだろうか

 

保険者への期待

  • 公的保険と民間保険の役割分担の調整は進んでいくことは間違いないが、どのように補い合っていくかについては本格的に議論するべき時期にきているだろう
  • 現在の制度の下では、病気やケガにあうリスクは人によってある程度違いがあるかもしれないが、ひとたび患者になって受ける治療やケアそのものに伴うリスクは、誰であっても大きな違いはない。こうした状況を踏まえつつも、治療やケアそのものをカバーする現在の公的保険の周辺に、サービスの質なども考慮した、何らかのプレミアムが得られるようなオプションを加えていくことを検討してはどうだろうか

 

日本が他国の保健医療政策に貢献できること

  • 日本の高齢化は急速に進んでいるが、同時に健康で活力のある高齢者も他国に比べて多くなっている。元気に長く活躍を続けられるよう健康維持を促す仕組みや、万一の場合への備えの仕組みなどは今後高齢化が進む諸外国にとっては、大変参考になるだろう。どのような課題をどう克服したのかを示すことは、他国の保健医療政策に大いに貢献することになるだろう