3.3民間医療保険

国民皆保険制度下において民間医療保険が果たす役割

民間医療保険は、公的医療保険制度の補完的役割を主に果たしている。公的保障の給付対象外サービスに対する保障や、病気になった際に発生するその他費用に対する保障、休業に対する所得保障などの役割を担っている[24],[25]。また、納税者が生命保険料、介護医療保険料及び個人年金保険料を支払った場合には、一定の所得控除を受けることができる。これを生命保険控除といい、払い込んだ生命保険料に応じて、所得税や住民税負担が軽減される。


民間医療保険分野が急成長してきた背景

医療保険やがん保険などは第三分野保険に分類される(用語集参照)。第三分野保険の取り扱いは1970年代当初は外国の生命保険会社にのみ許可されていたが、1995年の抜本的な保険業法の改正を経て2001年に第三分野保険市場が完全自由化され、国内の保険会社全てに販売が解禁された[26]。第三分野の保有契約件数は一貫して増加しており[27]、生命保険の中でも主力商品となっている。近年、従来は保険への加入が難しかった「持病や既往症がある人」向けの専用の医療保険(引受基準緩和型医療保険)などの新しいタイプの商品も登場しており、高齢化が急速に進展する中、持病や既往症などで保険の加入が難しかった中高年層も、入院・手術リスクに備えることが可能になっている。こうした背景もあり、民間医療保険における保有契約件数は年々増加しており、2016年には全生命保険会社の主契約において入院・手術保障等を提供する医療保有契約件数は3,529万件に上った[28]。


今後の民間医療保険に期待される役割

現行の日本は、公的医療保険制度の給付範囲が広く、フリーアクセス制度である。さらに高額療養費制度や混合診療禁止等の理由から、民間医療保険が果たす役割は諸外国と比較し、限定的なものにとどまっている。疾病構造の変化や日本における主な死亡要因であるがん医療が以前にも増して重視されていることや、先進医療の拡大などにより、民間医療保険に対するニーズも少しずつ変わってきている。こうした状況も踏まえ、今後の民間医療保険の役割は、公的医療保険制度改革の内容によって変わりうる[29],[30]。さらに、少子高齢社会の進展や技術革新により、国民医療費が増加するとされており、公的医療保険の範囲の見直しにより、保険適用範囲が縮小される可能性がある。現在市場で供給されている民間医療保険の多くは定額的・定型的な金銭給付で限定的なものとなっているが、今後はこうした公的保険適用外の医療サービスに対する新たな民間保険の役割が期待されると予測される。

参考文献

[24] 田近栄治、菊池潤「医療保障における政府と民間保険の役割:理論フレームと各国の事例」http://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list6/r111/r111_02.pdf(アクセス日2017年11月21日)

[25] 中浜隆「民間医療保険の役割 ―日米の比較を通じて―」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsis/2007/596/2007_596_596_69/_pdf(アクセス日2017年11月21日)

[26] 芹澤伸子「第三分野保険市場」http://dspace.lib.niigata-u.ac.jp/dspace/bitstream/10191/16657/1/90_249-271.pdf(アクセス日2017年11月21日)

[27] 一般社団法人生命保険協会「2017年版生命保険の動向」http://www.seiho.or.jp/data/statistics/trend/pdf/all.pdf(アクセス日2017年11月21日)

[28]一般社団法人生命保険協会「2017年版生命保険の動向」 http://www.seiho.or.jp/data/statistics/trend/pdf/all.pdf(アクセス日2017年11月21日)

[29] 中浜隆「民間医療保険の役割 ―日米の比較を通じて―」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsis/2007/596/2007_596_596_69/_pdf(アクセス日2017年11月21日)

[30] 河口洋行「公的医療保障制度と民間医療保険に 関する国際比較 ―公私財源の役割分担とその機能―」http://www.seijo.ac.jp/pdf/faeco/kenkyu/196/196-kawaguchi.pdf(アクセス日2017年11月21日)