世界保健機関(WHO)の重点項目をWHOのFact sheetを参考に政策の動向を追ってみましょう。
まず、生存率と健康状態の向上をみてみます [2]。2019年には、5歳以下のこどものうち、520万人が予防可能で治療可能な疾患で命を落とし、その内訳は生後1-11ヶ月が150万人、1-4歳が130万人であり残りは出生28日未満の新生児でした。5歳以下の小児の死因として多いのは、早産関連合併症、出生時の呼吸器障害・外傷、肺炎、先天的異常、下痢やマラリアが上げられています。
2つ目に、乳幼児の栄養に関して、栄養不足がこどもの死の45%に関連しています [3]。2019年、世界では5歳未満のこどものうち1億4400万人が発育不良、4700万人が衰弱(身長に対して細すぎる)である一方で、3830万人が過体重または肥満と推定されています。生後0~6カ月の乳児約44%が母乳のみで育てられています。栄養的に適切で安全な補助食を受けているこどもは少なく、大半の国では生後6〜23カ月の乳児のうち、年齢に応じた食生活の多様性と頻度の基準を満たしている割合は4分の1にも達しません。仮に生後0〜23カ月にあたる全てのこどもが最適な母乳育児を受けていれば、5歳未満のこどもの命は毎年82万人以上救命できるとされています。母乳育児は、知能指数(IQ)や就学率を向上させ、成人してからの高収入と関連します。母乳育児によってこどもの発達を改善し、医療費を削減できれば、個々の家庭だけでなく、国レベルでの経済的利益に寄与します。
3つ目に新生児における生存率と健康度の改善を取り上げます。新生児死亡数は1990年の500万人から2019年には240万人に減少したものの、こどもたちは生後28日間に最大の死のリスクに直面しています [4]。2019年には、5歳未満の死亡のうち47%が新生児期に発生し、そのうち約1/3が出生当日、3/4が生後1週間以内に死亡します。生後28日以内に死亡するこどもたちは、出生時に良質なケアや、出生直後および生後数日間の熟練したケアや治療の欠如に関連した状態や疾患に苦しんでいます。早産や出産時の合併症(出産時の窒息や呼吸不足)、感染症、先天性異常が新生児死亡の原因の多くを占めます。国際水準の教育を受けた専門の助産師が提供する助産師主導の継続的ケア(MLCC : midwife-led continuity of care)を受けた女性は、こどもを失う可能性が16%低く、早産を経験する可能性が24%低いです。
4つ目は暴力です。こどもに対する暴力とは、親やその他の養育者、仲間、恋愛相手、他人によるものなど、18歳未満の人に対するあらゆる形態の暴力を含みます。1年間に身体的、性的、精神的な暴力やネグレクトを経験した2〜17歳のこどもは、10億人に上ると推定されます [5]。こども時代の暴力体験は生涯にわたる健康と幸福に影響を与えますが、世界中のエビデンスから、こどもに対する暴力は予防可能であることがわかっています。
5つ目はこどものがんについて取り上げます。0-19歳0~19歳のこどもと青少年のうち、約400,000人が毎年がんと診断されます [6]。小児がんで頻度が高いのは、白血病、脳腫瘍、リンパ腫、神経芽腫やウィルムス腫瘍などの固形がんです。包括的な治療が可能な高所得国では、80%以上のこどもががんを克服できる一方で、低・中所得国(LMICs : Low and middle income countries)では、治癒は15~45%と推定されています。ほとんどの小児がんは、ジェネリック医薬品や、手術や放射線治療などの他の治療法によって治癒が可能です。小児がんの治療は、すべての所得環境において費用対効果が高いとされています。LMICsにおける小児がんによる回避可能な死亡は、診断の欠如、誤診や診断の遅れ、治療を受ける際の障害、治療の放棄、毒性による死亡、再発率の高さなどが原因となっています。
6つ目は児童虐待に注目してみましょう。2-4歳のこどものうち、4人に3人または300万人のこどもが日常的に体罰や精神的暴力に苦しんでいます [7]。0-17歳のこどものうち、女児は5人に1人、男児は13人に1人が性的暴力を受けています。
最後に新たな脅威である気候変動、大気汚染、肥満、交通事故について言及します。気候変動や生態系の破壊につながる温室効果ガスの排出は、すべてのこどもの生活を脅かしています。こどもは屋内外の大気汚染による健康影響を受けやすく、2016年の報告によれば年間約700万人が死亡しているといわれています。2億5,000万人以上のこどもたちが、発達能力を享受できないリスクにさらされています。また、肥満の影響を受けているこどもや青年は1億2400万人に上ります。こどもたちは、中毒性のある物質や不健康な商品を宣伝する商業マーケティングに頻繁にさらされています。交通事故はこどもや若者の死因の第1位であり、毎年10億人以上のこどもが危険にさらされています。