日本における認知症施策の変遷

2000年:介護保険法施行

高齢者を社会全体で支えあう仕組みとして1997年に成立し、2000年に施行した。それまで日本の高齢者介護は家庭内で解決するものとされてきたが、介護の役割を主に担うと一方的に考えられていた女性の社会進出が進んだことや、多世代居住の減少により介護の担い手が不足したことから、「介護の社会化」が叫ばれるようになった。同時にこれまでの「措置制度」であった高齢者福祉から、高齢者も主体的な権利を持つ「契約者」としてみなされるようになり、自立と共にその権利擁護も重視されるようになった。
(詳細はJHPNの「介護保険制度」のページへリンク)


2004年:「痴呆症」から「認知症」へ呼称変更

2004年、厚生労働省において「『痴呆』に替わる用語に関する検討会」が設置され、「侮蔑感を感じさせる表現であること」「痴呆の実態を正確に表していないこと」「早期発見・早期診断等の取り組みの支障になること」といった問題点が指摘された1。その後、国民への幅広い意見募集などを経て、「認知症」へ呼称変更することが決定した。検討会では、呼称変更を機に、認知症に対する正しい理解の促進や権利擁護など周知を図ることを目指した。


2008年:「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト」報告書

2008年、今後の施策をより効果的に推進するため「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト」が厚生労働大臣の下に設置され、報告書がとりまとめられた。本報告書では認知症施策の基本方針として「早期の確定診断を出発点とした適切な対応の促進」が掲げられ、具体的な対応項目として以下が列挙された。

  1. 実態の把握
  2. 研究開発の加速
  3. 早期診断の推進と適切な医療の提供
  4. 適切なケアの普及及び本人・家族支援
  5. 若年性認知症対策

2012年:「今後の認知症施策の方向性について」

上記の報告書を受け、これまでの認知症施策の再検証と、今後の基盤となる提言を目指して「今後の認知症施策の方向性について」がまとめられた。この提言は、2010年に立ち上がった「新たな地域精神保健医療体制を構築するための検討チーム」内に、さらに認知症施策を深く議論するために設置された「認知症施策検討プロジェクトチーム」によるものである。それまでの施設入所や入院を仕方のないものとして捉える方向性から、「認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会」を目指すべく、「自宅→グループホーム→施設あるいは一般病院・ 精神科病院」というような不適切なケアの流れを変え、むしろ逆の流れとする標準的な「認知症ケアパス」(状態に応じた適切なサービス提供の流れ)を構築することを基本目標とした。またそうした施策の推進に向けた調査研究の充実を図ることも明記された2


2012年:「認知症施策推進五ヵ年計画」(オレンジプラン)

2012年に公表された「今後の認知症施策の方向性について」をベースとしたのが、同年の「認知症施策推進五ヵ年計画」(オレンジプラン)である。オレンジプランは、以下の7本柱で構成された。

  1. 標準的な認知症ケアパスの作成・普及
  2. 早期診断・早期対応
  3. 地域での生活を支える医療サービスの構築
  4. 地域での生活を支える介護サービスの構築
  5. 地域での日常生活・家族の支援の強化
  6. 若年性認知症施策の強化
  7. 医療・介護サービスを担う人材の育成

2013年:G8認知症サミット

2013年12月にイギリスで初めて「G8認知症サミット」が開催された。G8各国、欧州委員会、WHO、OECDの代表が出席したほか、日本からも厚生労働副大臣が出席し、日本の高齢化と認知症の現状や、オレンジプランについて説明した。同会議では「認知症研究については新しい国際的なアプローチ、たとえば一国の取り組みではなく、各国共通の目的として研究を加速すること」が合意された。


2014年:認知症サミット日本後継イベント

「G8認知症サミット」を受け、「新しいケアと予防のモデル」をテーマとし、2014年11月に東京にて「認知症サミット日本後継イベント」が開催された。日本医療政策機構も本イベントに後援し、代表理事の黒川 清が挨拶をした。この場において、以下の「①早期診断・早期対応とともに、医療・介護サービスが有機的に連携し、認知症の容態に応じて切れ目なく提供できる循環型のシステムを構築すること、②認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて、省庁横断的な総合的な戦略とすること、③認知症の方ご本人やそのご家族の視点に立った施策を推進すること」(新美,2016,p548)の3つを柱とした新たな戦略の策定が発表された。

また、本イベントに合わせて当機構・OECD主催で「社会的投資により認知症課題を解決する -G7認知症サミット後継イベント 民間サイドミーティング-」を開催し、民間主導の「社会的投資」により、官民一体で認知症に関する様々な課題を解決するための戦略やアプローチについて議論した。


2015年:「認知症施策推進総合戦略認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~」(新オレンジプラン)

「認知症サミット日本後継イベント」での発表を受け、2015年1月には「新オレンジプラン」が発表された。新オレンジプランは、認知症の人やその家族をはじめとした様々な関係者から幅広く意見を聞き、認知症の人やその家族の視点に立って立案された。2025年までが対象期間だが、3年ごとに数値目標等を見直すこととしている。また策定において、厚生労働省のみならず、内閣官房、内閣府、警察庁、金融庁、消費者庁、総務省、法務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省及び国土交通省と共同で作成された点が、これまでのプランと大きく異なる。


参考文献

  1. 厚生労働省「『痴呆』に替わる用語に関する検討会報告書」http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/12/s1224-17.html(アクセス:2018年6月18日)
  2. 厚生労働省「今後の認知症施策の方向性について」http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002fv2e-att/2r9852000002fv5j.pdf(アクセス:2018年7月2日)