新オレンジプランでは「地域包括ケアシステム」の考え方をベースに、認知症高齢者等にやさしい地域づくりを推進していくため、認知症の人が住み慣れた地域のよい環境で、自分らしく暮らし続けるために必要としていることは何かという観点から作られている。本プランは全体で6つの施策項目と「認知症の人やその家族の視点の重視」という1つの理念項目の合計7本柱で構成されており、各施策項目の下には具体的な制度が紐づけられている。
新オレンジプラン(2015年)
認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進
認知症は皆にとって身近な病気であることを、改めて社会全体として確認することを目指す。
- 制度の具体例1:
認知症サポーターの養成「認知症に関する正しい知識と理解を持ち、地域や職域で認知症の人や家族に対してできる範囲での手助けをする人」である認知症サポーターを養成する。
【目標】2020年度末までに1,200万人
認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供
医療・介護サービス等が有機的に連携し、認知症の容態の変化に応じて適時・適切に切れ目なく提供されることを目指す。特に早期診断・早期対応を主眼とし、行動・心理症状(BPSD: Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)や身体合併症により、医療機関や介護施設等での生活に固定化されず、常にふさわしい場所で適切なサービスが提供される仕組みを構築する。
- 制度の具体例1:かかりつけ医の認知症対応力向上研修
かかりつけ医は「健康に関することを何でも相談でき、必要な時は専門の医療機関を紹介してくれる身近にいて頼りになる医師」1 とされている。様々な診療科を標榜しているこれらのかかりつけ医が、認知症に対する対応力を高め、必要に応じて専門医につなぐ役割を担えるようになるため、都道府県や指定都市が研修の実施・運用を担っている。
【目標】2020年度末までに研修受講済みのかかりつけ医7.5万人
- 制度の具体例2:認知症サポート医の養成
専門医とかかりつけ医の中間的存在であり、地域連携の推進役としての期待を受け、2005年から養成が進められている。養成研修の主体は、かかりつけ医向けの研修同様、都道府県及び指定都市である。「認知症サポート医=かかりつけ医」ではなく、専門医や専門医療機関において地域連携についてリーダー的立場を取れる認知症サポート医を養成する。
【目標】2020年度末までに認知症サポート医1万人
- 制度の具体例3:認知症疾患医療センターの設置
認知症疾患医療センター認知症の鑑別診断等、地域における認知症医療提供体制の拠点となる医療機関を指す。病院の機能や病床数、医師の配置等により「基幹型」「地域型」「診療所型」の3つに分類されており、いずれも鑑別診断に係る検査等の総合的評価が可能な医療機関を設置する。
【目標】認知症疾患医療センター500ヵ所(2次医療圏に少なくとも1センター以上設置することを目指す)
- 制度の具体例4:認知症初期集中支援チームの設置
認知症初期集中支援チーム医師や看護師など複数の専門職が、家族の訴え等により認知症が疑われる人や認知症の人及びその家族を訪問し(アウトリーチ)、アセスメント、家族支援等の初期の支援を包括的・集中的(おおむね6か月)に行い、自立生活のサポート行うチームのことである。2018年度からは全ての市町村に設置されている。
- 制度の具体例5:認知症ケアパスの作成
認知症の人の状態や進行に準じた適切なサービス提供の流れを示したものである。各市町村が作成の責任主体となり、地域資源を把握した上で、認知症の進行度合いと時間軸に応じて、職種横断的な連携体制を構築することで、切れ目のない支援体制の構築を目指している。
- 制度の具体例6:認知症地域支援推進員の設置
認知症地域支援推進員主に医療・介護等の支援ネットワーク構築・認知症対応力向上のための支援・相談支援・支援体制構築といった役割を担うため、各市町村に設置されている。医療福祉の専門職もしくは市町村が同等の知識と経験を有すると認めた者が要件である。
若年性認知症施策の強化
若年性認知症は、高齢者の認知症と共通の課題に加えて、就労や生活の維持、子供の養育等経済的な問題も多く抱える可能性が高い。そのため若年性認知症に特化した対応が必要とされ、都道府県ごとに若年性認知症の人やその家族からの相談の窓口を設置している。また若年性認知症の人を支える家族や介護者、雇用する企業などへのサポートも不可欠である。
- 制度の具体例1:全国若年性認知症コールセンターの設置・若年性認知症コーディネーターの養成
- 制度の具体例2:若年性認知症ハンドブック・ガイドブックの配布
認知症の人の介護者への支援
介護者への直接的な支援こそ、認知症の人の生活の質の向上につながるとの考えから、介護者の精神的・身体的負担を軽減するための支援が必要とされている。
- 制度の具体例1:認知症カフェの開催
認知症の人や家族が、地域と支援者や専門職と情報共有、意見交換をする場所として全国各地で開催されている。主に地域包括支援センターが主催するが、地域で高齢者支援等を行うNPO法人や民間企業が開催することもある。
認知症を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進
生活の支援(ソフト面)、生活しやすい環境(ハード面)の整備、就労・社会参加支援及び安全を確保し、認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりを推進する。
認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル、介護モデル等の研究開発及びその成果の普及の推進
認知症の原因となる疾患の病態解明や行動・心理状況(BPSD: Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)等を起こすメカニズムの解明を通じて、認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル、介護モデル等の研究開発を推進する。
認知症の人やその家族の視点の重視
上記全ての施策項目に共通する理念として、認知症の人やその家族の視点を重視することを掲げている。近年では、政府や地方自治体の認知症に関する会議に認知症の人やその家族が出席している。また「本人会議」など、認知症の人やその家族が主体的に地域づくりに参画する機会が各地で増えている。
参考文献
- 日本医師会「かかりつけ医を持ちましょう」https://www.med.or.jp/people/kakari/(アクセス:2018年7月10日)