診療報酬体系

診療報酬とは医療機関や薬局が医療保険の適用範囲内の医療サービスや医薬品を提供した時に対価として受け取る料金を指し、厚生労働省の管轄下にある制度である。厚生労働省は医療サービス、医療機器および医薬品に対する診療報酬点数と請求要件を定め、国内における全ての医療提供者がその決定を遵守しなければならない。また、診療報酬点数として定められているよりも高額な医療費を請求することは禁止されており、保険診療と保険外診療の併用(混合診療)も原則として認められない。


出来高払い方式

1961年に現在の医療保険制度の基盤が確立して以降、診療報酬制度は出来高払い方式を基本としてきた。保険適用内の医療サービス・医薬品・医療機器に個別に設定された点数に基づいて各医療機関が実際に行った医療行為に対する診療報酬を算出し、診療報酬点数を元に保険者から払い戻しを受ける制度である。


診断群分類別包括支払い方式

診断群分類別包括支払い方式(DPC)とは、人口の高齢化に伴い、医療費・入院治療の期間・医療サービスの需要に対する関心が高まる中で2000年代前半に始まった日本独自の診療報酬制度である。DPC導入の主な目的は、医療の標準化・透明化の促進である。客観的な診療情報データベースの構築により、病院運営者や医療従事者にとって、自らが提供する医療の成果や改善点が明確になり、医療の質の病院間格差を是正、全体的な質が向上する狙いがある。同時に患者にとっては、客観的なデータで標準的な治療や価格情報を参照できるという利点がある。また、平均在院期間の短縮も期待されている。2012年現在、国内の一般病床の約53%がDPCの運用対象である1。これはアメリカで導入されているDRG(Diagnosis Related Groups)/PPS(Prospective Payment System)制度と同様に定額払い方式であり、診断に基づいた分類コードを採用している(2012年4月の時点で全2927分類)。DPC制度の特徴としては、一日当たりの包括評価であることや、出来高払い方式を一部組み込んでいることが挙げられる。診療報酬の算出は、DPC施行診断群に該当する入院治療に対しては定額、非該当の場合には出来高方式で行われる。

DPC方式における具体的な報酬算定方法は以下の通りである。

  • 入院基本料、検査(画像診断を含む)、注射、投薬および診療報酬1000点未満の処置等を対象と包括評価部分の対象とし、DPC分類別の一日当たりの点数、在院日数および予め定められた医療機関別の係数に基づいて算出する。現在、同レベルの診療機能を持つ医療施設間の係数のバラつきを無くすため、全国規模で医療機関別係数の見直しが行われている2
  • 手術、放射線治療、麻酔および1000点以上の処置は包括評価の対象外であり、診療報酬は出来高払い方式で算定される。
  • 入院段階により算出方法が異なり、のうち入院期間Iにおける一日あたりの定額報酬は入院期間IIおよびIIIよりも高く設定されている。入院期間IIは第I日以降平均在院日数までを指し、この期間における定額報酬は診断群分類に応じて異なるものの、一日当たりの医療資源の平均投入量を加味した上で入院期間I よりも低く設定されている。入院期間IIIは特定入院期間として計算される最後の期間であり、一日当たりの定額報酬は入院期間IIより低く設定されている。例外的に入院期間IIIよりも入院が長期化する患者の診療報酬については、出来高払い方式で算出される。

DPC制度が本来の目的に沿う成果を出しているかという点に関しては、様々な角度から議論が行われている。DPC制度はアメリカのPPS方式と出来高払い方式を独自の方法で組み合わせたものであるために、未だ医療コスト削減には繋がっていないとする分析も多い一方、PPS制度を今後さらに統合していく事に対しては否定的な見方も多いとされている3,4,5


【特定入院期間とは】

・在院日数に応じて、入院期間Ⅰ(平均在院日数の25パーセンタイル値までの期間)、入院期間Ⅱ(25パーセンタイル値から平均在院日数までの期間)、入院期間Ⅲ(平均在院日数を超えた以降の2SD日間)が定められている。 ※SD(標準偏差):統計値のばらつきを表す数値の1つ

・これらの入院期間Ⅰ~Ⅲの通算した期間を「特定入院期間」という。

・DPC方式においては、特定入院期間を超えた日より、医科点数表に基づいた出来高評価となる。


資料:近畿厚生局 「平成22年度診療報酬改定の概要(DPC関連部分)」


コラム:包括払いでコストは下がったか?

日本型の包括払いであるDPC導入は、その導入の際には、コスト抑制効果も期待されていた。ではそれは達成されているのだろうか?実は、DPCによりむしろ医療支出が増えた可能性もある。DPC導入により平均在院日数は短縮されたが、1日あたりの入院料は上昇、病院にとっては入院患者数を増やすことで増収を図るような動きも観察されている。また、「DPCコンサルティング」といったサービスも登場しており、いわゆるアップコーディング(より報酬が高い 分類でコーディングして請求を行う)が行われている可能性もある。

参考文献

1 Ishii, M.( 2012). DRG/PPS and DPC/PDPS as Prospective Payment Systems. The Japan Medical Association Journal. 55(4): 279–291, Retrieved from https://www.med.or.jp/english/journal/pdf/2012_04/279_291.pdf (accessed on 14-07-2015)

2 Ikegami N. Universal Health Coverage for Inclusive and Sustainable Development. Washington, D.C.: World Bank Group, 2014.

3 Yasunaga,H., Ide, H., Imamura, T., Ohe, K. Impact of the Japanese Diagnosis Procedure Combination-based Payment System on Cardiovascular Medicine-related Costs. International Heart Journal. 2005 Sep; 46(5):855-66.

4 Ishii, M. DRG/PPS and DPC/PDPS as Prospective Payment Systems. Japan Medical Association Journal 55 (4): 279-291, 2012.

5 Kondo, A. and Kawabuchi, K. Evaluation of the introduction of a diagnosis procedure combination system for patient outcome and hospitalisation charges for patients with hip fracture or lung cancer in Japan. Health Policy. 2012 Oct;107(2-3):184-93.