最先端医療・最新技術の追求

ヘルスケア・ニューフロンティアのもう一方のアプローチとして、「最先端医療・最新技術の追求」がある。神奈川県内には、従来より、医薬品、医療機器メーカーの工場や研究所、関連大学・研究機関等が集積しており、最先端の医療・ライフサイエンス分野に係る研究面及び産業面での蓄積がある。さらに、神奈川県は、超高齢化に伴う医療ニーズの増大や、希少疾患等のアンメットメディカルニーズへの対応、及びiPS細胞等の幹細胞やロボット技術を活用した革新的医療の開発・実用化に向けて、取り組んでいる。
これらの施策を通じて、超高齢化に伴う課題の解決や、新たな産業・雇用の創出を図るため、神奈川県は「最先端医療・最新技術」の研究開発及び実用化に、積極的に投資している。
ここでは、医薬品、医療機器、再生医療等製品の実用化のために必要となる「臨床研究体制」の強化、今後大きな成長が期待される「再生・細胞医療」、「ヘルスケアロボット」に関する取組みを紹介する。

臨床研究体制の強化

日本では、医療・医薬品分野において、iPS細胞に関することを初め、大学や研究機関での基礎研究は進んでいるが、その製品化、実用化は欧米に比して遅れているといわれる。国内外の有望なシーズを、いち早く医薬品、医療機器、再生医療等製品として認可を受け、患者に提供していくために、治験・臨床研究体制の強化が必要である。そこで、神奈川県は、大きく2つの観点から、取組みを進めている。

まず、薬事承認を目指す企業等向けに、医薬品、医療機器、再生医療等製品に関するレギュラトリーサイエンスの研究による確かな知見を踏まえ、人材育成、治験・臨床研究や薬事承認申請等に関する助言等を行う「かながわクリニカルリサーチ戦略研究センター(仮称)」の設置に向け、準備を進めている。また、医療機関を対象に、実際に治験・臨床研究を請負い、実施するにあたって、総合的に支援することのできる機能、取組みについて、検討を始めている。治験・臨床研究に携わる企業、医療機関の双方を支援することが、シーズの早期実用化につながるものである。

再生・細胞医療の産業化拠点形成


神奈川県は、羽田空港近くの川崎市殿町地区を中心に、国や業界団体である一般社団法人再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)と連携して、再生・細胞医療の産業化に向けた拠点形成を進めている。神奈川県は、その中核施設として、再生・細胞医療の産業化拠点である「ライフイノベーションセンター(仮称)」の整備を進めている。「ライフイノベーションセンター」では、再生・細胞医療の産業化の推進を目的に、大学や研究機関による基礎研究のみならず、試作品の開発、材料の供給、細胞の大量培養、品質検査・保証までワンストップで行うため、関連企業の集積を図っている。また、ベンチャーを中心にハンズオンによる事業支援や、ビジネスマッチングの機会を通じて、参入からの支援を行う予定である。施設内には、最新の再生・細胞医療の提供や、治験・臨床研究を行うクリニックを設置する見込みだ。

ライフイノベーションセンターが立地する川崎市殿町地区には、国立医薬品食品衛生研究所、公益財団法人実験動物中央研究所やジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社東京サイエンスセンター、富士フイルムRIファーマ株式会社、CYBERDYNE株式会社、ナノ医療イノベーションセンター、ペプチドリーム株式会社、公益社団法人日本アイソトープ協会、川崎生命科学・環境研究センター(LiSE)などを始め、多くのライフサイエンス機関が集積する予定であり、各機関の連携による新たなイノベーションが期待される。

ライフイノベーションセンターは、2016年春に開所予定である。

ライフイノベーションセンター(イメージ)

© Healthcare New Frontier Promotion Bureau, Kanagawa Prefectural Government

ヘルスケアロボット産業の創出

超高齢化に伴う課題の解決のために期待されているのが、ヘルスケアロボットである。医師による施術を補助する医療用ロボットのみならず、介護や支援が必要である高齢者や障害者、これを支える労働者、工事現場等における重労働者の活動をサポートするロボットも、これに含まれる。ロボット分野においても、日本には優れたシーズが多く存在するが、ヘルスケア・ニューフロンティア政策では、その実用化を促進することで、新しい社会システムの構築を目指す。

1つの例として、筑波大学発のベンチャー企業であるCYBERDYNE株式会社が開発したロボットスーツ「HAL®」がある。HAL®は、身体に動きを命じる脳からの微弱な電波を感知し、即座に、ロボットによる動きのアシストに変えるものだ。HAL®の使用を繰り返すうちに、歩行が困難である人が少しずつ機能を回復していくなど、目覚しい効果が期待できる。今年、神奈川県は、HAL®を活用した介護職員向けの実証事業を開始した。介護職員は、高齢者等を相手にする日常業務において、腰に大きな負担を抱えていることから、HAL®を用いてこの負担の軽減を図るものだ。県内には、HAL®を用いて高齢者のケアを行う「湘南ロボケアセンター」があるほか、CYBERDYNE株式会社は、前述の殿町地区に国際拠点を構えることを発表している。このように革新的なロボット技術を、社会に役立つ産業に育てていくために、神奈川県は更に取組みを強化していく。