介護保険制度

介護保険制度は2000年に創設され、2015年1月の時点で65歳以上の人口の約17%にあたる500万人以上を受給の対象としている1。また、障がいを持つ若者を給付対象とする制度とは異なり、高齢者の長期介護を目的とし、40歳以上のすべての国民に加入の義務がある制度である。


この制度の特徴としては、以下の点が挙げられる。

  • 40歳以上の全ての国民を被保険者とした公的制度であること。また、保険料は所得に応じて設定される。
  • 受給対象が65歳以上のすべての国民であり、加齢に起因する疾病(脳卒中などの脳血管疾患を含む16種の特定疾病)により要介護・要支援状態にある40歳以上の国民も受給資格を持つこと2。また、収入にかかわらず全ての人が同じサービスを受けることが可能であり、65歳以上になれば収入や身体的ニーズに関わらず、全員が利用できること3
  • 介護サービスには介護施設サービス・在宅サービス・地域密着型サービスなどがあり、介護支援専門員により個別に必要なサービスの提示が行われること。日常動作などについての調査用紙および医療関係者からの診断書に基づき、自治体が個別に要介護レベルを定める。それぞれの要介護レベルにおいて、低所得者の負担能力に応じた段階的な保険料の設定がなされている。要介護レベルは通常の場合2年おきに再診断されるが、体調の悪化などが起きた場合は随時再診断が行われる。
  • 全ての介護サービスにおいて自己負担の割合が10%であること。
  • ケアマネージャーや介護サービスの提供者は、介護保険制度加入者が自由に選ぶことができること。このサービス選択の自由は、介護サービスの質を管理する上で重要である。ただし、介護サービス提供者やケアマネージャーの数が少ない地域においてはサービスの選択肢が少ないため、選択の自由による質の管理は、あまり効果的ではない4
  • 保険料の設定や介護サービス提供者の認定など、制度の具体的な運営は市町村単位で行われること。
  • 介護サービスの提供者には、営利目的の団体と非営利目的の団体の両方が存在すること。また、介護サービス料は政府により規定され、3年毎に見直しが行われる。

介護保険制度の主な課題としては、以下の点が挙げられる。

  • 介護サービスには非常に大きな需要があるにも関わらず、人的資源および財源の不足、新たな施設を立ち上げることに対する政府の規制などにより、施設サービスの希望者が入所待機者として長い間施設に入れない状態が続いていること。高齢化に伴い、人口の多い大都市において介護施設のさらなる不足が見込まれていること。
  • 介護従事者の不足により、短期入所療養介護施設を含む様々な介護施設で人員不足となっていること5。厚生労働省によると、2025年までに30万人以上の人員不足が予想されている。人的資源の不足の一因として、たとえば介護職の低賃金問題が挙げられていることから、厚生労働省により様々な改善策が検討されている。
  • 他のアジア諸国から医療従事者を受け入れ、労働市場を拡大しようという考えに徐々に移行しつつあること。2008年から2009年にかけて日本はインドネシア、フィリピン、ベトナムと貿易協定を結び、それらの国々からの労働者を増やすことに同意した。しかし、これらの外国人労働者を現在の医療システムにスムーズに受け入れるためには、今後、様々な施策が必要である。
  • 介護保険制度下の介護者の負担については未だ大規模な評価が行われていないこと。介護者の負担に影響する要因として、介護サービスの供給能力、地方自治体の協力および精神的なサポート等が挙げられる。

コラム:認知症

他の多くの国と同様、日本でも認知症患者が激増すると予測されている。政府の推計によると、2025年には約700万人が認知症となり、65歳以上の20%が罹患するとされている。予防法も治療法も確立していないなか、認知症患者のケアは大きな課題となっている。安倍総理の指示により、政府は2015年1月に 認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)を策定するなど、対策を急いでいる。また、たとえば80歳の妻が85歳の夫を介護するといった「老々介護」や、家族の介護のために仕事を辞めざるを得なくなる「介護離職」などが社会問題化、今後認知症患者の増加で、さらに深刻になると予測されている。

参考文献

1 Ministry of Health, Labour and Welfare. Long-term care benefits: Monthly report. Retrieved from :http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/kyufu/2015/01.html (accessed on 15 April ,2015).

2 Campbell, J.C., Ikegami, N., Gibson M.J. (2010). Lessons from Public Long-term care insurance in Germany and Japan, Health Affairs, 29(1): 87-95

3 Tamiya, N., Noguchi, H., Nishi, A., Reich, M.R., Ikegami, N., Hashimoto, H., Shibuya, K., Kawachi, I., Campbell, J.C. Population ageing and wellbeing: lessons from Japan’s long-term care insurance poliy. The lancet. 2011. 378(9797): 24–30

4 Ikegami N. Universal Health Coverage for Inclusive and Sustainable Development. Washington, D.C.: World Bank Group, 2014

5 Matsuyama, K. (February 20, 2015). Tokyo’s Elderly Turned Away as Nursing Homes Face Aid Cuts. Bloomberg. Retrieved from: http://www.bloomberg.com/news/articles/2015-02-19/tokyo-s-elderly-turned-away-as-nursing-homes-face-aid-cuts(accessed on 20 August 2015)