民間医療保険

日本の公的医療保険は給付額や補償範囲において非常に充実しているが、一方で民間の医療保険市場は急成長している分野である。民間医療保険は、かつては保障の対象が歯列矯正や高額の美容外科手術などの自由診療に限られていた。民間医療保険は生命保険の特約として徐々に広がり、その後、生命保険業界が拡大するにつれ、同時に発展を遂げてきた1。現在、市場に出ている医療保険プランの中には慢性疾患や入院に伴う費用を給付対象とするものもある。それらのプランは疾病治療に関わる費用を一括して保障の対象としている。がん治療費と長期入院費などがその一例である。

民間の医療保険契約には、生命保険と分離した単独型の医療保険契約、新規または契約済みの生命保険に付加する特約型、そして公的医療保険制度により発生する自己負担金を補完する医療保障保険の3つの契約形態が存在する。日本国内の生命保険会社全社が加盟する生命保険協会の発表資料によると、2013年時点で民間保険会社による単独型の保有契約件数は推定2,998万件、入院・手術保障のある契約は9,452万件、補完的な医療保障保険は172万件に達した。国内のがん保険の契約件数も2013年現在で2,116万件に上っている2

国内の民間医療保険の拡大は、今後とも限定的なものに留まると考えられている3。その要因としては公的医療保険制度の充実、幅広い医療提供体制および医療機関へのフリーアクセス制度が挙げられる4。一方で、疾病構造の変化や日本における主な死亡要因であるがん医療が以前にも増して重視されていることや、先進医療の拡大などが、これらの民間医療保険に対するニーズを高める可能性もあると考えられている5


参考文献

1 Thomson, S., Osborn, R., Squires, D., & Jun, M. (2013). International Profiles of Health Care Systems, 2013. Commonwealth Fund Pub. No. 1717, p. 75–83.

2 Life Insurance Association of Japan (2014). Life Insurance Fact Book 2014. Retrieved from http://www.seiho.or.jp/english/statistics/trend/pdf/2014 (accessed, April 16, 2015)

3 Tajika, E. and Kikuchi, J. (2012). The Roles of the Government and Private Insurances in Healthcare Systems: the theoretical framework and the overseas case studies. Policy Research Institute, Ministry of Finance, Japan, Public Policy Review. Vol 111, No.1

4 Tajika, E. and Kikuchi, J. (2012). The Challenges of Japan’s Public Healthcare System and the Potential of Private Medical Insurance. Policy Research Institute, Ministry of Finance, Japan, Public Policy Review. Vol 111, No.2

5 Japanese Association of Cancer Registries. Cancer Registry in Japan. Retrieved from http://www.jacr.info/publicication/document/CRIJ_eng.pdf (accessed on 16-04-2015)