介護保険制度は、高齢者の介護を社会全体で支え合う保険制度で、2000年に創設された。市区町村が保険者となって運営を行い、40歳以上の全国民が被保険者となる。この制度は、適用範囲と給付水準の点において、諸外国と比べて寛大な制度であり、2016年4月の時点で500万人以上が受給対象である[16]。
3.2日本の介護保険制度
介護保険制度の概要
介護保険創設の経緯
介護保険創設の詳細については、Section1で述べた通りである。従来の老人福祉制度下においては、市町村がサービスの選択主体であったため、利用者がサービスを選択できず、サービス内容も画一的となりがちであった。また、サービスの利用は、応能負担であったため、中高所得者層には重い負担となり、介護を理由とする一般病院への長期入院が問題となった。
高齢化の進展に伴い、要介護高齢者の増加や介護期間の長期化などにより、介護ニーズはますます増大する一方で、核家族化の進行、介護する家族の高齢化など、要介護高齢者を支えてきた家族をめぐる状況も変化した[17]。
このような、従来の老人福祉・老人医療制度の問題点を踏まえ、高齢者の介護を社会全体で支え合う仕組みとして介護保険制度を創設するに至った。
介護保険の基本理念
○ 自立支援:単に介護を要する高齢者の身の回りの世話をするということを超えて、高齢者の自立を支援する
○ 利用者本位:利用者の選択により、多様な主体から保健医療サービス、福祉サービスを総合的に受けられる制度
○ 社会保険方式:給付と負担の関係が明確な社会保険方式を採用
介護保険の加入者(被保険者) と保険料
介護保険の被保険者は、65歳以上(第1号被保険者)と、40歳から64歳までの医療保険加入者(第2号被保険者)に分けられる。
○ 第1号被保険者: 原因を問わずに要介護認定または要支援認定を受けたときに介護サービスを受けることができる。
○ 第2号被保険者: 加齢に伴う疾病(特定疾病)が原因で要介護(要支援)認定を受けたときに介護サービスを受けることができる。
2015年度末時点で、第1号被保険者数は3,382万人、第2号被保険者数は4,204万人(2017年度内の月平均人数)となっている[18],[19]
第1号被保険者(65歳以上)の保険料は、医療保険の保険料とは別に納付する。保険料は保険者(市町村)ごとに、所得に応じて標準9段階の基準額・保険料率が設定されている[20]。第2号被保険者(40歳以上64歳以下)の保険料は、医療保険の保険料と一括で徴収され、保険料は加入する医療保険者ごとに設定されている[21]。
<コラム>被保険者はなぜ40歳以上?
介護保険制度がなぜ40歳以上の国民を対象としたのかは、制度創設時にも大きな議論があった。議論の中では、65歳以上、20歳以上とする意見もあったが、1996年の老人保健福祉審議会における介護保険制度案大綱(諮問)には、40歳以降になると自らの親の介護が必要となり、家族という立場から介護保険による社会的支援を受ける可能性が高まることから40歳以上の者を被保険者とし、社会連帯によって介護費用を支え合うということが示されており、こうした議論を経て現在の介護保険制度の枠組みとなっている。 [厚生労働省, 2006]
介護保険財政
介護保険は、図3-2-1にあるように被保険者の保険料5割と公費5割で賄われている。2016年度予算案では、介護給付費9.6兆円で、その内訳は、第1号被保険者2.1兆円、第2号被保険者2.7兆円、国庫負担金2.3兆円、都道府県負担金1.4兆円、市町村負担金1.2兆円である。医療費と同様、介護保険給付費も毎年過去最高額となっており、今後は高齢化によりさらに介護給付費も増加することが見込まれている[22]。
財政負担に関する財政措置もあり、「後期高齢者比率が高いことによる給付増」と「被保険者の所得水準が低いことによる収入減」を国庫負担26%のうち5%分で財政調整を行い、市長村間の財政力の差を解消している。こうした財政調整の仕組みについては、Section1.2で説明した高齢者医療制度に係る保険者間の財政調整の仕組み、つまり“財政力の差”を解消するという点では仕組みとしては大変類似した制度設計となっている。
介護サービス利用、要介護認定
介護サービスを利用するためには、市区町村の窓口や地域包括センターに申請をし、介護が必要だという認定「要支援・要介護認定」を受ける必要がある。要支援・要介護認定を受けると、ケアマネジャーがケアプランを作成し、介護保険を利用した様々な介護サービスを受けることが可能となる。
認定の際には、日常生活活動に基づく74項目の調査、及び医療関係者からの診断書に基づき、専門家委員会が検討し要介護レベル(要支援1,2,要介護1~5)を定める。要介護レベルは通常の場合2年おきに再診断されるが、体調の悪化などが起きた場合は随時再診断が行われる[23]。要介護認定者の年次推移は図3-2-2の通りである。
2006年介護保険法改正では、要介護状態の軽度(要支援、要介護1)の方が年々増え続け、要介護状態の改善につながっていない状況を改善すべく、介護予防サービスが新たに創設された。この際に、それまで要介護1と認定されていた方が、状態の維持、改善の可能性によって、要支援2、要介護1に分けられ、こうした区分が現在まで続いている。
<コラム>介護保険制度創設
当初の利用者数
介護保険制度創設以前は、高齢者介護については老人福祉と老人医療とに区分されていた。制度創設当初、今まで福祉サービスを受けていた者が、介護保険へ移行後も引き続き同じサービスを受けることができるように認定基準を緩く設けた経緯もあり、居宅サービス利用者は軽度の利用者が一気に増え、特養では入所を待つ人たちが増えてしまった。 [池上直己, 2017]
参考文献
[16] 厚生労働省「平成28年度介護給付費等実態調査の概況」 http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/kyufu/16/index.html(アクセス日2017年11月19日)
[17] 厚生労働省「公的介護保険制度の現状と今後の役割」http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/201602kaigohokenntoha_2.pdf(アクセス日2017年11月19日)
[18] 厚生労働省「平成27年度介護保険事業報告(年報)」http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/jigyo/15/dl/h27_gaiyou.pdf(アクセス日2018年1月25日)
[19] 厚生労働省「第2号被保険者にかかる介護保険料について」http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/jigyo/15/dl/h27_hihokensha.pdf(アクセス日2018年1月25日)
[20] 厚生労働省「平成 30 年度予算(案)の概要(老健局)」https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/18syokanyosan/dl/gaiyo-13.pdf(アクセス日2018年7月6日)
[21] 厚生労働省「介護保険制度について」http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/2gou_leaflet.pdf (アクセス日2017年9月21日)
[22] 厚生労働省「公的介護保険制度の現状と今後の役割」http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/201602kaigohokenntoha_2.pdf(アクセス日2017年10月21日)
[23] 厚生労働省「介護保険制度について」www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/2gou_leaflet.pdf (アクセス日2017年9月21日)