将来的に、医療領域においては今後も変化が続いていくことが予想され。厚労省の「保健医療2035(Health Care 2035)」と題する報告書に記されている通り、以下の主要な動向が、将来の日本の医療制度において、さらなる変化を促すだろうと予測されます。1)人口動態上の変化、2)加速する都市への人口集中、3)疾病構造、4)技術革新による影響の規模拡大の4つです。また、これらの要因はそれぞれ、日本の医療保険制度に異なる影響を及ぼしていくと予想されます。
まずは人口動態上の変化において、世界的に先進国では、経済と人口動態の両方での成熟化と高齢化が見られます。日本では、そのような人口動態上の変化は、高齢化と人口減少という2つの具体的な形で顕在化しており、それが医療制度に及ぼす影響は劇的なものとなるでしょう。また、人口の高齢化が進むと共に疾病の重度も進行し、医療需要の内容が変化するとともに支出額は増加を続けると予測されています。
同時に、人口の都市への集中も加速するでしょう。日本においては特に明白です。の執筆時点において、人口が増えている都道府県は東京都、神奈川県、埼玉県など2017年10月1日現在では7都県のみであり、地方では減少して。これらの人口動態上の変化が、医療提供方法における変化を引き起こしています。医療施設が相対的に少ない地方においては、IT等を活用した技術サポートや「遠隔治療」技術への需要も生まれています。
さらに、医療が進化し高齢化が進むことで、疾病構造も変化しています。認知症やがんの割合が増大しつつあり、それに合わせて地域社会における、医療に対する新たなアプローチも出現しつつあります。例えば、クラウド・ソリューション等の新技術を使って患者データを相互接続することによって、患者が病院で過ごす時間と医療従事者の数を削減できるようになりつつあります。これらの技術によって、高齢者を介護施設に受け入れる前に在宅介護可能な期間を長くすることができるでしょう。しかし、将来の介護サービス提供モデルを開発する前提条件として、個人情報のプライバシー確保等の重要な課題を克服することも必要です。
最後に、技術革新がもたらす変化は、今後も起き続けると考えられます。既に、ソーシャルメディアは隆盛となり、クラウド技術も出現しています。医療以外のあらゆる業界でも、「ビッグデータ」「アナリティクス」等の話題が日常的に議論されています。これらの技術革新が、医療の提供方法効率化を推進する新たな機会を創出すると期待されています。また、これらの技術革新を活用し、テクノロジー企業、自動車メーカー、通信企業等、その他幅広い業界からの「新規参入者」が医療市場へ参入し始めており、医療における改革を推進しています。その結果、医療制度のデジタル化が起こりつつあり、これらのテクノロジーによって将来の医療の提供方法は現在から大きく進化すると予想されます。
例えば、遺伝子工学領域や家族歴の傾向を含む健康履歴情報と薬局の情報システムを各自の携帯アプリ上で連結した場合、どのようなことが起きるでしょうか。そのような仕組みをプライバシーとセキュリティを確保した上で実現できれば、患者は日本全国どこの病院でも受診でき、同じ検査や治療を繰り返し受けたりする必要がなく、医療機関をまたいでも連携されたケアを受けることが可能になるでしょう。
このような動向により、日本の医療保険制度に劇的な変化が訪れることが想像できます。日本の医療保険制度は市場等の外部の力による影響を受け、市場は政府による規制を受けることでしょう。
このJHPNが、日本の医療保険制度に関する学習・参考文献として、読者にとって有益なものとなれば幸いです。日本医療政策機構は今後規制が変更され、社会的動向が医療保険制度に影響し、変化が生じるのに合わせて、本書を更新していく予定です。