日本における2016年度の医療費(速報値)は41.3兆円であり、前年度から約0.2兆円減となっている。この医療費は速報値であり、労災・全額自費等の費用を含まないことから概算医療費とも呼ばれている。概算医療費の伸び率は、対前年度比で-0.4%となっている。伸び率がマイナスになることは、頻繁にあることではなく、2015年度にC型肝炎治療薬等の抗ウイルス剤の薬剤料の大幅な増加等により高い伸びとなったのに対し、2016年度は診療報酬改定や抗ウイルス剤の薬剤料が大幅に減少したこと等により、一時的にマイナスになったと考えられる[1]。
なお、本セクションにおいて医療費は、病気やけがをしたときに病院や診療所などの医療機関、調剤薬局などの診察・投薬・治療などで実際にかかった費用を指す。ただし、医療費(速報値)を用いる場合は、上記の通り概算医療費を指すこととし、国民医療費は、保険診療の対象となり得る傷病の治療に要した費用を推計したものを指す。具体的には、医科診療、歯科診療にかかる診療費、薬局調剤医療費、入院時食事・生活医療費、訪問看護医療費、柔道整復師・はり師等による治療費などが含まれている。
国民医療費については、図7-1-1からも分かるように、年々増加している。これは、各年度内に医療機関等における傷病の治療に要する費用を推計したものである。医療支出が増加する要因としては、他の先進国と同様に高齢化・医療技術の高度化・医療需要の増加などがあげられる。高齢化という視点においては、2015年には国民医療費の約60%[2]が65歳以上の高齢者(2016年10月1日時点で総人口の約27.3%)にかかる国民医療費であり、総人口が減少する中、高齢化率は上昇し続け、2036年には65歳以上の高齢者の割合が33.3%に達し、3人に1人が65歳以上の高齢者となり[3]、さらなる国民医療費の増加が予測されている。
制度区分別の給付費額等を各制度において財源負担すべき者に割り当てた、財源別国民医療費の内訳をみると、図7-1-2にあるように全体の87%が公的支出(公費、保険料)となっている。このことを踏まえると、日本の皆保険制度の持続可能性を考える上では、国民医療費は重要なテーマである。
日本の医療支出は他の先進国と比べて低いと指摘されることがあるが、日本の総保健医療支出の対GDP比はOECD平均値よりも高く、アメリカ、スイス、ドイツ、スウェーデン、フランスに次いで第6位となっている[4]。OECDのHealth Statisticsでは、医療保険給付される治療費を対象にした国民医療費だけではなく、市販薬、介護サービス、予防(予防接種、健康診断等)、自然分娩、差額ベッド代なども含むことからより広範な支出を指している。
近年、日本のGDPに対する総保健医療支出の割合は増加傾向にある。2006年から2016年にかけて、医療支出の対GDP比は7.8%から10.9%へと増加し、OECD平均の9.0%(2016年)を上回る数字となっている[5]。OECDの試算によれば日本の医療支出は今後徐々に抑えられていく見込みであるが、同時に、日本はOECD加盟国の中で2009年以降も対GDP比の医療支出が増加し続けている数少ない国のうちの一つである。
次に国民医療費の地域差についてみていく。図7-1-3にあるように、1人当たりの国民医療費が最も高い高知県ともっとも低い埼玉県では約1.5倍の差がある。政府はこうした国民医療費の地域差に対して、年齢調整後1人当たり国民医療費の地域差半減を目指している。その手段としては、Section4や5で触れた、「地域医療構想」「医療費適正化計画」「健康増進のためのインセンティブ強化」があげられる。
さらに図7-1-4のように診療種類別国民医療費でみると、入院医療費が国民医療費全体の37%と最も多く、次いで入院外医療費が34%、薬局調剤医療費が18%となっている。Section4も指摘したように、諸外国と比較して長い平均在院日数は、入院医療費を増やしている1つの要因として指摘されている。