【調査報告】働く女性の健康増進に関する調査結果(2016年)

現在、政府は女性の活躍推進を成長戦略のひとつとして掲げており、産業界も女性役員・管理職への登用に関する行動計画を策定し、数値目標を設定するなど動きを活発化させています。社会全体で働く女性の活躍を推進する機運が高まっている一方、女性が働き続けるための健康面への配慮は十分とは言えません。
日本の将来を考える上では、女性の健康への配慮が不可欠であり、女性の活躍推進の取り組みには、健康増進に関連した施策も含めることが求められています。また、こうした施策の検討にあたっては、女性の健康増進が社会にもたらす社会経済的な効果を幅広く捉え、議論する必要があります。

そこで日本医療政策機構では、東京大学大学院 薬学系研究科 五十嵐 中 特任准教授、横浜市立大学 医学部臨床統計学・窪田 和巳 助教と研究を実施し、女性の健康増進が社会にもたらす影響について、社会経済的側面から検証しました。あわせて女性の活躍推進や健康増進に関する施策の国際比較により、日本の現状と課題を明らかにしました。

(調査結果内の情報および所属情報は2016年1月時点のもの)



注目すべき調査結果

  • 婦人科系疾患を抱える働く女性の年間の医療費支出と生産性損失を合計すると、少なくとも6.37兆円にのぼる(医療費1.42兆円、生産性損失4.95兆円(*))
  • 月経随伴症状、乳がん、子宮頸がん、子宮内膜症といった婦人科系疾患の有無は、QOLおよび労働損失時間と概ね有意な関連が見られる
  • 定期的に婦人科を受診している人の割合は2割にとどまる。また受診しない理由として、「健康なので行く必要がない」という回答が5割を超えた
  • 他国と比較し、日本の婦人科がん検診の受診率は低い。受診率の高い国では、公的な予算による補助の他、かかりつけ医が定期的な受診を促す仕組みや、コール・リコールシステム(**)が整備されている

*今回の調査は、あくまで探索的なものであり、今後この調査研究の結果に基いた更なる調査の展開が望まれる
**未受診者への個別勧奨と再勧奨を行う制度


調査結果を受けての我々の見解

1、婦人科受診や検診受診率の向上

【行政(国や自治体)】

  • 婦人科がん検診を定期健康診断項目に含める
  • 産業保健スタッフに対し女性の健康に関するトレーニングを実施
  • 女性の健康に関する医師のアドバイスに対してインセンティブを付与する

【企業】

  • 婦人科健診を含めた健康診断の受診勧奨や補助

2、教育、普及啓発の充実

【行政(国や自治体)】

  • 自身の身体や、予防・治療法、妊娠・出産等を含めたキャリアプランニング等の教育の実施
  • 検診や婦人科受診の重要性、月経随伴症状の改善のためのオプション等についての正しい知識の提供

【企業】

  • ホルモンの影響や婦人科疾患など、女性の身体の特徴や配慮すべき点、予防・治療法について、女性も男性も学べる機会の提供

3、健康経営の促進

【行政(国や自治体)】

  • 「健康経営」の評価指標に「女性の健康」も組み込む
  • 女性の健康増進が企業にどのような価値をもたらすかの効果測定に関する調査研究や、健康経営の好事例調査等の実施

【企業】

  • 「女性の健康」を踏まえた健康経営の実施